首里城の火災から2日目となった昨日(11月1日)は、今後を占う上でいくつかポイントとなる動きがあった。
まずは再建に要する財政的な問題だが、菅官房長官が玉城知事と会談し、その席で「政府として財政措置も含めて、やれることはすべてやる」と述べるなど、かなり前向きな姿勢を示した(出典:NHKニュース)。
意外なほど早く国が財政負担に前向き
昨日のエントリーで書いたように、焼失した建物は、バブル期を挟んで建設が進められたことなど時代背景が異なり、経済・財政事情は当然いまの方が苦しい。それでも国として意外なほど早く、火災直後に決然とした姿勢を示したのは、やはり知事選や国政選で与党がことごとく破れ、県民感情を少しでも和らげたいという政治的思惑はあるはずだ。
ちなみに、国と沖縄の負担割合や保険の有無など重要な情報が当初出てこなかったが、琉球新報によれば2月に県に管理を移管した際に「小規模な修繕は県が、大規模な修繕は国が担う」との取り決めがなされていたようだ。
政府側の前のめりな姿勢はそうした契約的な根拠もあったのかと得心はするが、しかし、27年前の建設時に使われた台湾製のひのきはその後、「伐採が禁じられたことから在庫も30年前に比べて少なくなっていて、金額は5倍から10倍」(NHKニュース)だという。資材ひとつをとっても、見通しは厳しく、昨日述べたような民間マネーの多角的な活用はやはり必要になるのではないか。
沖縄県に分の悪い話が相次ぐ
さて、再建よりも当面重要になるのが出火原因と全焼を防げなかった構造上の問題だ。これらについても昨日は最低限の情報が少しわかってきた。
スプリンクラーがなかったことは当初からネットでも問題視されていたが、建物の外側で水のカーテンを貼って延焼を防ぐ「ドレンチャー」は配備されていたという(FNNニュース)。
そして、八幡さんらも指摘していた開催中のイベントと出火の関連。こちらは、県から管理を委託されていた沖縄美ら島財団の花城良廣理事長らが記者会見した際に、イベントの準備が出火の原因との見方は否定した。
しかし、昨日までの動きを見ていると全体的には県に分が悪いように見える。ネットですでに注目されているように、焼失した建物などがある首里城公園の有料区域の管理は、今年2月、国から県に移管。沖縄美ら島財団はいわゆる指定管理者として業務に当たっていた。
首長経験者のある国会議員は「国の行政のリストラや地方分権の流れが背景にあるが、沖縄に限らず、管理能力が不足する地方自治体に荷が重い仕事を任せる側面がある」と指摘する。2月以降、県による管理体制がどうだったのか、社会的な検証は当然必要だろう。
産経が「防災ヘリ不備」で独自追及
さらに、県に追い討ちをかけるように、こんなニュースもあった。産経新聞は「沖縄県は独自の防災ヘリを保有しておらず、首里城火災でもヘリによる消火活動支援はできなかった」と報じた。導入は検討段階にとどまったままだったという。
仮にヘリがあっても市街地での投入は簡単ではないとの留保は付けているものの、そうした県側の考えについて、軍事アナリストの小川和久氏がツイッターで「まだ阪神淡路大震災の時の教訓に学んでいない。この記事にある旧態依然たる認識は24年前のものだ」と厳しく指摘していた。
まだ阪神淡路大震災の時の教訓に学んでいない。この記事にある旧態依然たる認識は24年前のものだ。沖縄県の担当者は私の『ヘリはなぜ飛ばなかったか』(文藝春秋)を読んでほしい。>首里城火災 陸自ヘリ投入できず 沖縄県、独自機導入を模索中 https://t.co/OfdTxHvWMt@Sankei_newsさんから
— 軍事アナリスト 小川和久 (@kazuhisa_ogawa) 2019年11月1日
小川氏は、都市型災害でもヘリからの空中消火が可能だとの論者。阪神大震災当時は空中消火が見送られたが、その後、内閣府の資料でも「空中消火に関する今後の研究の必要性が示唆された」と記述されるなど、この分野に影響を与えた経緯がある。
小川氏の興味深い指摘はさらに止まらず、沖縄県が危機管理部門で、自衛隊OBの活用を拒否した過去があったともいう。
沖縄県は危機管理部門に自衛隊OBを入れるのにずっと抵抗していたが、いまはどうなっているのだろう。それに、自衛隊のOBと言っても空中消火を語れるのは航空科職種のパイロット出身者だけだ。その点は、多くの自治体もわかっていない。 https://t.co/vG196iz9Kb
— 軍事アナリスト 小川和久 (@kazuhisa_ogawa) 2019年11月1日
現地の取材競争に対する「杞憂」
警察、消防の初動の実況見分で得られた情報は、そろそろ出てくるだろう。琉球新報、沖縄タイムスの2紙を筆頭に在沖メディア各社による当面のスクープ競争は、出火原因をどこよりも速く、正確に報じることができるかどうか。早ければ今日2日の朝刊で報じられるかもしれない。現場の記者たちは、この歴史的大事件に際して疲労困憊になりながらも使命感と緊張感をみなぎらせて取材に駆け回っていることだろう。
一方、ひとつだけ気になるのは沖縄2紙はいずれも論調が左派で、基地問題などでは、安倍政権と闘った翁長前知事の時代から後押ししてきた経緯があることだ。玉城知事にとっては県の発注事業をめぐる疑惑に続くピンチとも言える状況にあって、県の管理責任や防災対策の不備に焦点が集まりはじめた。ここで忖度なしに切り込むことができるのか。取材に燃える現場記者はまだしも、論調を決める上層部に手心が生まれたりするようなことがまさかあったりはしまいか。
こうした「杞憂」を抱いてしまうのは、やはり沖縄の新聞に現県政と対照的な保守側のメディアの存在感がないことだ。「第3の県紙」をめざし、石垣島から2017年に上陸して注目された八重山日報。
しかし、残念ながら事業不振で、今年3月、沖縄本島の配達を取りやめた。
念のためだが、保守がよくて、左派がダメと言いたいのではない。時の政権と政治的価値観が反対側のメディアがいないと適切な監視機能が働かなくなる恐れを指摘したいのだ。
もし現県政が国政与党系の人物なら沖縄2紙はなんの呵責もなく追及するのは容易に想像できる。しかし玉城県政に対してはどうか、
実際、ヘリの話を独自視点で書いて問題提起したのは産経新聞だ。本土からの派遣で、弱小体制での駐在だろうが、いい仕事をしている。
地元2紙と全国紙との取材競争、さらには本土から乗り込むであろう週刊誌などの突撃取材を含め、メディア、報道視点でも今後の成り行きに注目している。
新田 哲史 アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」