財政制度分科会(平成30年10月)の防衛予算に関する資料を読む⑨

財務省の財政制度分科会(平成30年10月24日開催)において防衛予算に関しても討議されまた。その資料を財務省がHPで公開しています

Wikipedia:編集部

引き続きこれについて重要な指摘とその解説を行います。

防衛省システムについて①(P52 )

○ 防衛省には内局・各幕を通じて多数のシステムが混在(注)。システム全体の効率化・合理化の観点から、価格積算の妥当性確保やシステムの統廃合等に不断に取り組むことが不可欠。
○ 特に防衛省においては、(ⅰ)システム統廃合に当たって経費節減効果を見極める必要があることに加え、(ⅱ)適正な価格積算、(ⅲ)入札における競争性の確保、といった点を確実に担保する必要がある。
(注)平成31年度における防衛省のシステム数は174、31年度概算要求額は約1263億円(歳出ベース)

防衛省のシステム導入は装備の調達同様に全体を通した構想がなく、各個最適化といえば聞こえはいいですが、無計画です。しかも業者の言いなりで調達しています。これは天下りが関係していることもあるでしょう。以下財務省は問題点を分析してます。

①統合の問題点

● 内局・各幕ごとに似たシステムが存在するなど、必ずしも防衛省全体で合理的な整備状況になっていない点を踏まえ、システムの廃止・統合も含め、業務フローや事務処理の効率化や維持管理コストの低減を図ることは重要。
● 統合を選択する場合は、適正なスペック・規模、維持管理まで含めた総額での価格低減といった観点を踏まえた、真にコスト削減に資する合理的な計画となっているか厳格に精査すべき。
● 統合に際してはユーザーの運用上の意見を丁寧に拾い、活用しやすいシステムを時間をかけて開発すべきであり、業者からの提案のみを基にした拙速な統合は慎むべき。

例:AIクラウドシステム事業

各幕・各機関が使用する40の業務系システムのサーバを集約し、クラウド化を図ることで運用費等の経費削減を図るクラウド事業と、行政文書の確実かつ適切な管理のためAIを活用するAIシステム事業の2つからなる、総額約558億円の事業。31年度から13年間かけ、PFI事業においてシステム開発・維持管理等を一括実施予定。なお、統合に伴うコスト削減効果やスペックの妥当性について現時点では不透明であり、精査が必要。

最大の問題は天下りと、防衛省内部にシステムに精通している人間が少ないことでしょう。専門家を外部から導入する、同時に外部の評価組織をつくるなどの対策をとるべきですが、「美味しい利権」なのでかなり難しいでしょう。何しろ某電気大手は社内報で堂々と「防需の利益は4割」と張り出していたぐらいです。

防衛省システムについて② (P-53)

②価格見積もりの精査

● 防衛省のシステムに係る概算要求においては、特注の防衛装備品と同じ原価計算方式や、過去の契約実績金額に基づく要求額が散見。
● システムは、発注者ごとの特注を前提とする業務パッケージでの調達が一般的であるが、SEの作業人月単価などは利益込みでの市場価格が存在。単に“特注だから”という発想に立つ原価計算方式や前回契約実績の採用は避け、政府調達の原則を踏まえ、複数事業者の見積もりを比較し適切な水準で契約すべきではないか。

例:統合幕僚監部・通信関連システム事業における価格見積もり方式(31年度開発及び換装分)直近実績・見積:3事業、 原価計算方式:20事業

③競争性の確保

● 例えば、29年度の統幕・通信関連システム事業の約94%は一者応札で、その落札率は92.0%。
● 新規参入者を増やし競争性を確保するためにも、仕様書の透明性確保、分割発注等の工夫を徹底すべき。また、省内の体制強化や監察本部の活用などを通じ、適切な条件下で入札が行われているかを常時チェックすべき。

例:改善が必要と考えられる仕様書の記載例

・今後納入予定のプログラムとの関係性の説明を必須要件に課しているが、当該プログラムの基本設計書の貸付が無いなど、特定社以外を排除する記載・器材の設置は、現有施設を活用し、施設工事は原則として行わないなど、既存施設に係る知見・ノウハウのない業者は不利となる記載・仕様書の構成部品の欄に、一者応札が続いている業者の汎用PCやサーバー等の型番を指定する記載。

端的にいえば当事者意識&能力が欠如している上に、天下りなどを通じて既存の業者と癒着しているということです。システムの責任者を外部から招聘する、あるいは調達自体を外に出さないと無理ではないでしょうか。

■本日の市ヶ谷の噂■
川重は懲りもせずに失敗作OH-1偵察ヘリの派生型の攻撃ヘリを陸幕に提案。エンジンはそのままで安さをアピールして採用を狙うとの噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2019年11月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。