先月23日、自民党有志の「日本の尊厳と国益を護る会」(護る会)が、「養子および婿養子案」と「旧宮家の皇籍復帰案」を骨子とする「皇位継承の安定への提言」を行った。
この議論は、小泉総理が2005年1月に設けた私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」が、同年11月「皇位継承資格を女性や天皇・皇族の女系子孫にも拡大すること」などを求める最終報告書をまとめたことを契機に活発化した。
が、翌年2月の秋篠宮妃ご懐妊によって先送りされ、同年9月の悠仁親王ご誕生で沙汰止みとなった。後に小泉総理も「男の子として継ぐ方がおられる限りは、そういう女性の天皇を考える必要はない状況になった」と、この方らしい浅薄な発言をした経緯がある。
本稿では、この問題で極めて真っ当な意見を旧宮家の一員の立場を超えて発信してきている竹田恒泰氏が、5日のテレ朝「羽鳥慎一モーニングショー」で、名うての三人、玉川徹氏、青木理氏、菅野朋子氏を相手に孤軍奮闘した様子を実況風にまとめてみた(発言を一部捨象している)。
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玉川:伝統は世の中が変われば変わってゆく。天皇家が続いたのは側室制度があったから。男系だけだと継承の半分だけでやってゆくことになり、皇統維持は不合理的。側室も伝統だったかも知れぬがやめたのは世の中が変わったから。世論がどういう風に考えているかが重要。
竹田:欧州は側室を認めないから基本的に男系だがブルボン王朝も500年以上続いた。かつては乳児の死亡率が高く、明治天皇のお子様も15人中5人しか成人しなかった。宮家も出生率は高かったが女子が多かった。医療水準が上がった今日、側室なしには成り立たないという理屈はない。
玉川:根本論をやるのなら医療も生殖技術も進み、望めば子供を得られる時代が遠からず来る。だったらこのままいけば良いのでは。
竹田:このままでは宮家がゼロになる。この提言は旧宮家を活用して宮家を用意しておけば、何百年後かに訪れる万一の事態に備えられるとの趣旨。
玉川:それでも何で女系が駄目なのかが判らない。
菅野:宮家を復活させるのが良いのか、それとも女性女系が良いのか、まずそれが大事では。
青木:「護る会」は安倍さんや安倍さんのコアな支持層で、安倍さんが仰れないことを代弁した。世襲で特定の地位を継承してゆくことが近代民主主義と整合するのか。基本的人権が制約されるがそれで良いのかという根本議論がある。天皇制は主権の存する国民の総意に基づく象徴。皇室に親しみを持っている人が8割だが、今後の存続も国民の総意で考えねば。その時に男系男子に拘泥し続けるのか、時代に合わせて女性や女系を認めてゆく方が良いじゃないか、という辺りを議論すべき。
竹田:(女系天皇の場合)将来、男系の血を引かない天皇が誕生した時に、認める人と認めない人とに分かれてしまう、これが一番の問題。
菅野:それを言ったら養子を認めないという人もいる。世論調査で宮家の復帰や養子と女性女系天皇とどっちでしょうという話になる。
竹田:旧宮家が復帰してもその方が天皇になる訳でないし、皇位継承権を与えない方法もある。将来の皇位安定に備えることをするなという主張は理解できない。
玉川:今の皇室典範ができたのは終戦直後の話。男女平等とか何もない。
竹田:秋篠宮妃ご懐妊の前は女系女性天皇容認が90%以上あったが、女性と女系の違いの理解が進んで世論が変化し、局によっては5割5分との調査結果になった。半年間に4千万人が意見を変えた。国民世論と秋の空、一つの参考にはなろうが、これだけを以ってやれというのは間違い。
青木:女性天皇を認めるのなら、早くしないと愛子さんとか真子さんとか人生に関わる。結婚して民間に出てゆくか、残って場合によっては天皇になるということ。
菅野:女性天皇を認めるのと女系天皇を認めるかの議論もある。
竹田:女性女系を認めるというのは血統に関わる大変革だが、私の考えるのは現状維持。要は皇室典範で皇族に限っているのを旧宮家に広げるという法律レベルの話。
番組:安倍総理のこれまでの発言を説明。
青木:最長といわれる安倍政権でこの問題の議論をしてこなかったが、安倍さんを支持する竹田さんのような方々は今回結論を出そうとしているのか。
竹田:私は議論を先送りしてきた安倍さんの姿勢には不満。
青木:では法改正をするのか
竹田:法改正と実際に旧皇族をどうするかという具体的な中身との整合が取れてこないといけない。
青木:先送りすれば女性皇族がみな出て行って、結果的に悠仁親王しか残らなくなる、安倍さんはそれを狙っているのではないか。
竹田:そういうことではなくて、将来宮家がゼロになることがほぼ確定しているので、今手を打って早く宮家を充実させることが重要と考えている。
玉川:国の象徴たる天皇に女性は駄目なんだよ、と言われ続ける国ってどうなんだろうと思う。つまり女は駄目だよって、国の象徴ですからね。
竹田:女性天皇は例がある。が、女系天皇の入り口になるし、先例がない。
玉川:女系ってそんなに駄目なんですか。
竹田:駄目というより先例がない。2000年の間ずっと女系継承で来たなら、今私はここで女系継承を言うと思う。
番組:欧州の王朝が女性差別撤廃などを理由に長子継承になっている事情を説明。
竹田:欧州の王は財産を継承するので王位継承は権利、英国国王は大富豪。女子差別撤廃以降、女は財産を継承できないのは差別になった。日本の皇族は基本的に財産をお持ちにならない。日本の皇室はむしろ義務中心の継承で、欧州の王室とは異なる。
菅野:女性女系を認めないことがどれだけ女性にとって苦痛か。男を生むことを強いられる。
竹田:だからこそ宮家を充実させる訳ですね。天皇を認めておきながら女性差別を持ち込むのはバランスを欠く。
玉川:皇族に生まれ、人権を制限されながらも国民のことを思うから国民に尊敬される。やはり皇族に生まれることが大事で、一度皇族を離れた方は相応しくない。
竹田:復帰させた皇族に子供が生まれるから、その子供に皇位継承権を与えるということ。民間に行ったら皇族はおかしいというが、皇后陛下も民間から皇族になられた。
青木:宮家を増やすというが税金を使うんでしょう。人権を制限される方を増やしていいんですか。
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「下衆の勘繰り」青木氏、「ジェンダー一辺倒」菅野氏、「伝統は変わる」玉川氏の三人を相手に、竹田氏は極めて抑制的な態度で孤軍奮闘した。この件では彼の話が最も筆者の腑に落ちる。
竹田氏は、戦後皇籍離脱した11宮家の現況を述べ、必ずしもその方々が皇位継承する訳でなく、皇籍復帰するか養子になった後にそこに生まれる男子が、生まれながらに皇位を継承することを縷々説明した。
旧宮家の現況と秋篠宮と同年齢の53歳以下の男子の人数
賀陽宮:未婚2名
久邇宮:未婚1名・既婚1名
朝香宮:既婚1名
東久邇宮:未婚5名、既婚5名
竹田宮:未婚2名、既婚4名
断絶:伏見宮、山階宮、北白川宮、閑院宮、東伏見宮、梨本宮以上:未婚10名、既婚11名 合計21名
これら旧宮家の方々が過去に何回か集まってこの件を話し合ったと、竹田氏は別の場で述べている。それによれば、2005年当時は関心の薄かった方や女性女系の知識にも乏しい方もいたものの、その後は意識が変わり、いざという時に備える気持ちになっている方も多いとのことだ。
テレ朝のこの番組で件の三人を相手に竹田氏が正論を説いたことは大いに意義がある。青木氏とは全く異なる理由からだが、一刻も早く結論を出して欲しい。勿論、筆者は「護る会」や竹田氏が主張する内容に賛同する。
参考拙稿:皇統の維持は「皇室典範」第9条の削除で
高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。