「小学校に医ケア児が普通に通える」豊中市に行ったけど外国みたいだった件

駒崎 弘樹

医療的ケア児は、特別支援学校において母親の付き添いを求める東京都。

先日、都議会で長年の悪しき伝統を2020年度からやめる、と都教育委員会は言いました。

しかし、現場ではまだまだ変化の兆しは一向に見えてきません。
翻って我々は、すでに付き添いなしで医ケア児が学校に通っている、という市に行ってきました。

しかも特別支援学校ではなく、普通の小学校にです。
今日はその様子をレポートします。

【北丘小学校】

今回の視察は、野田聖子議員(と秘書さん)、荒井聰議員(と秘書の加藤さん)、全国医療的ケア児者支援協議会の理事長の前田医師、医ケア協議会事務局長の駒崎が参加しました。このメンバーは、永田町こども未来会議の一行です。永田こども未来会議は、超党派の議員たち、厚労省・文科省・民間団体が集い、医ケア児家庭のための制度改正・制度づくりを考える会です。

最初に行ったのは、北丘小学校。
教室に入ってみると…。

え、どの子が医ケア児?

一同、全く分からず、顔を見合わせます。
後ろからだと、全く分かりません。

ようやく、首に気管切開のバルブを覆うスカーフをしている子が医ケア児であることを発見。
あまりにも普通に溶け込んでいて、全くわかりませんでした。

この「自然さ」にまず驚かされました。

野畑小学校

次に伺ったのは豊中市立野畑小学校。

こちらの教室には、ストレッチャーで寝たきりの人工呼吸器の子どもがスクールナースさんと一緒に授業を受けていたので、パッと見は分かりやすかったのですが、僕が強く印象に残ったのは、そのあたりまえっぷりです。

あたりまえに帰りの会の「今日の良かったこと」も、医ケア児の子も指されて、呼吸器をつけているので発言はスクールナースさんが代弁するのですが、スクールナースさんが発言しようと思うと、「いやいや、それは言わないで」と首を振って、それに対し「え、言っちゃダメなん?じゃあどれ言う?」みたいにスクールナースさんとやりとりしながら、発表してて、それを普通に聞いてるクラスの子どもたち。

特に特別なことは何も無く、普通に、あたりまえに教室に参加していて、その「あたりまえさ」に感動して泣きそうになりました。

【巡回派遣型】

また、特筆すべきシステムの特徴として、豊中市では18人の学校看護師さんを、7つの学校に交代して派遣している「巡回派遣型」の仕組みを採っている点です。

通常は、学校に1人、固定的に看護師さんを置く、「固定配置制」なのですが、これだとその看護師さんが病欠になったり辞めたりすると、一気に医ケア児の通学が難しくなります。

巡回派遣型にして、全員が全ての医ケア児の対応をできるようにしておけば、病欠等にも対応しやすくなります。

かつては豊中市も固定配置制を採っていたのですが、人材不足でそれが不可能になり、やむなく巡回派遣型を生み出したそうなのですが、それが功を奏した結果となりました。

この日もいったん呼吸器を外して体位を変える、と言うややリスクのある作業をするタイミングで、応援の看護師さんが来て、複数人で対応をしていました。

これは、他の自治体にとっても、非常に示唆深い仕組みだと思います。

【保護者の声】

視察の後、別教室で豊中市長まで出てきてくれ、医ケア児の保護者の方も2組出てきてくれました。

荒井聰議員「どうして豊中市はこうした先進的な取り組みができるのでしょうか」

市長「40年前から、「障害児は断らない」と言うことでやってきましたもので、特別どう、と言うのはありませんで…」

と困ったような顔をしています。

保護者A「大阪市に住んでいた時は、障害児を産んだんだから、親の責任で全部やりなさい、と言う雰囲気を強く感じました。でも、豊中に引っ越してからは、地域がなんだかんだ手を貸してくれて、すごく暮らしやすいんです。本当に豊中市に住めて良かったです」

保護者B「でも、私がうちの医療的ケアのある子を保育園に行かせようとした時は、それはもう役所は抵抗してましたよ。いっぱい喧嘩させて頂きました。でも現場の先生は本当に一生懸命やってくださって。保育園でパパ友ママ友もいっぱいできて。

小学校に進学したら、周りの親御さんたちの中で、一部色んなことを言う方もいましたが、保育園のパパ友ママ友が「なんかあったら、絶対私らが守るから」と言ってくれて、本当に嬉しかった」

保護者B「全く批判するつもりはないが、府立の特別支援学校に行くと、自分の地域から遠いから、地域と切り離されてしまう。やはり自分の地域の小学校に通えると、保育園友達の家庭もいて、すごく安心するし、災害があって避難する時も助かる。」

野田聖子議員「あなたたちが豊中市の人たちの日常は、本当に素晴らしいと思います。そのあたりまえが、日本のあたりまえに、なってないんです。国会議員の私ですら、親として医ケアのある子どもの同伴を求められ、別部屋でずっと待機せよと言われたんです。

40万人都市の豊中でできるんだから、東京でできないわけないでしょ、と言ってほしい。豊中市がどんどん発信して、日本全体が豊中のようになるように力を貸してほしい」

と言うようなやりとりがありました。

【学びとまとめ】

帰りながら、野田聖子議員から

「何だか、良い意味で外国に行ったみたいだったよね。彼らは、あたりまえすぎて、何が珍しいんだろう、くらいに思っていて。でも、私たちが向かうべき場所、目指すべき到達点を見れて、本当に良かった」とおっしゃっていたのが印象的でした。

僕も幾つか大きな学びがあったので、書き留めておきます。

・地域の小学校で重心児や医ケア児を受け入れられたら、特別支援学校は無くても良い。(特別支援「機能」が小学校にインストールされるため)

・現に諸外国では普通学校に障害児が通う「インクルーシブ教育」が一般化しているので、特別支援学校が無い国も多々あるわけで、日本もそうした方向を長期的には目指していくべきではないか、と改めて

・地域の小学校に通えるメリットは、地域のコミュニティと切り離されない、と言うこと。保育園や幼稚園、地域の人間関係を継続的に維持できることが大きいし、災害時や障害児家庭が課題を抱えた時も、コミュニティが支えやすい

・また、豊中では普通の小学校ですら呼吸器をつけた医ケア児を預かれるのだから、特別支援学校ですら親無しの通学を断る東京都(および全国の自治体)の現状は、やはりおかしい

・医ケア児就学先進自治体の豊中市でも、課題が無いわけではない。それが看護師の確保。夏休みに仕事が無いこと等から、時給1600円の非常勤でしか雇用できず、なり手の確保に困難を抱えている。現状は対応できているが、医ケア児が増えたらどうなるか・・・、とのこと

と言うわけで、視察報告を終わります。

豊中市、市教委、現場の先生・スクールナースの皆さん、ありがとうございました。

あなた方をモデルにし、全国であたりまえに医ケア児が学校に通える社会を、僕たちは創るべく奮闘していきたいと思います!


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2019年11月8日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。