政治の責任 ~ ハンセン病

細野 豪志

16日、「ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律」が全会一致で成立した。法案成立に尽力された与野党議員の皆さんに心より敬意を表したい。

長くなるが、法律の前文の一部を引用する。

ハンセン病元患者家族等も、偏見と差別の中で、ハンセン病元患者との間で望んでいた家族関係を形成することが困難になる等長年にわたり多大の苦痛と苦難を強いられてきたにもかかわらず、その問題の重大性が認識されず、国会及び政府においてこれに対する取り組みがなされてこなかった。

国会及び政府は、その悲惨な事実を悔悟と反省の念を込めて深刻に受け止め、深くおわびするとともに、ハンセン病元患者家族等に対するいわれのない偏見と差別を国民と共に根絶する決意を新たにするものである。

思い起こされるのは、初当選直後、初めて地元の駿河療養所を訪れた時のことだ。町内会長さん(元患者)に案内された慰霊塔の中には、位牌が数多く並べられていた。名前が書かれていない位牌が目に留まる。

「名前を捨てた人たちです。名前がある位牌もほとんど本名ではありません」

町内会長の一言に言葉を失った。家族との断絶を余儀なくなれた元患者の背後には、元患者との関係を断ち切らざるを得なかった家族がいたのだ。そのことに気がついていたにもかかわらず、ここまで取り組むことができていなかった。前文にあるように、私自身も悔悟と反省をしなければならない一人だ。

慰霊塔にはホルマリンにつけられた胎児も数多く並べられていた。素人目に見ても、大きな胎児の姿に驚く。

「生まれる直前に強制的に堕胎させられていました。生まれた後に殺された乳児もいたんです」

殺人すら辞さない凄まじい人権侵害。今となっては、その責任を問うことすら難しいだろう。権力とはここまでのことができるのだということに愕然とした。そして政治家として何かを為さねばと強く思った。

当時、元患者の方々が起こした訴訟で原告が勝利し、政府が控訴するかどうかが注目されていた。同僚議員と共に官邸前で控訴断念を求めて行動した。小泉純一郎総理が控訴を断念した時の記憶は今も鮮明だ。

2001年5月、ハンセン病訴訟原告団と面会した小泉首相(官邸サイトより:編集部)

その後、「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」が成立し、元患者への償いは進んだ。一方で、国立ハンセン病療養所の環境が良くなったとは必ずしも言えない。私は地元の駿河療養所を度々訪れているが、居住者の数が減少する中での医療体制の維持は大きな課題となっている。今回、療養所の医師の処遇を改善する改正が行われたことには大きな意味がある。

特に、駿河療養所では半年以上にわたって所長が不在という異常な事態が続いている。これまで内科医が務めてきた所長が不在になることで元患者の医療に支障をきたしており、現状は放置できない。すでに厚生労働省の担当部局には私も直談判をしているが、所長不在を1日も早く解消できるよう働きかけを強めていきたい。これは政治の責任だと思う。

最後に、改めてお亡くなりになった元患者の皆さんのご冥福をお祈りしたい。そして今回の法改正を契機に、元患者の皆さんの生活を確実に守り、家族の皆さんの補償が速やかに行われるよう更なる努力を行うことをここに誓う。


編集部より:この記事は、衆議院議員の細野豪志氏(静岡5区、無所属)のオフィシャルブログ 2019年11月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は細野豪志オフィシャルブログをご覧ください。