北大教授は解放されたものの、邦人拘束の脅威は去ったわけではない
中国にて反スパイ法で拘束されていた日本の大学教授が解放された。中国が自ら招いた国立大学教授を逮捕・拘束するという暴挙は一旦手打ちを図ることになった。この解放の背景には習近平国家主席を国賓で日本に招待するという日中両国の思惑が働いたものと推測される。
しかし、この他に邦人は中国で既に13名が反スパイ法によって拘束されており、その中には実刑判決を受けた者も存在している。北大教授が解放されたこと自体は歓迎するべきであるが、日本政府が中国政府に完全に舐められていることは明らかだ。この状況下においても、日本政府は「日中関係が正常な軌道に戻った」と主張しており、その認識は常軌を逸しているとしか言いようがない。
日本政府が邦人を保護できない理由は「軍事力」が脆弱だから
中国政府が日本政府を軽く見て邦人を次々と拘束している理由は簡単である。それは日本政府が保有する軍事力が脆弱だからである。中国政府が自国よりも弱い軍事力しか持たない国に遠慮する理由はほとんどない。
もちろん欧米人も中国において拘束されることもあるが、その拘束されている人数はまったく異なるものだ。日本政府は否定するだろうが、中国の露骨な対応は日本の専守防衛など邦人保護のための脅しにすら使えない程度のものに過ぎないことを如実に表している。
WSJの論稿でも指摘されている通り、中国は核戦力・ミサイル戦力について急速に拡充している。彼らは日本の自衛隊基地、米軍基地はもちろん、台湾やグアムなども射程に含めており、局地的には十分に攻撃的なイニシアティブを有している。
また、中国は既に第5世代戦闘機や軍事用ドローンを実装しており、兵器技術の輸出に積極的なウクライナから買い付けた空母を「遼寧」に改装し、南シナ海や台湾海峡において軍事的圧力を強めている。
日本に対する尖閣諸島周辺での度重なる挑発だけでなく、二桁に達する邦人拘束は中国の軍事力の自信の表れである。そして、日本の軍事力の体たらくを象徴するものだ。米国との同盟関係があったとしても、中国は現状よりも様々な圧力を弱めることは考えにくい。なぜなら、問題の核心は中国側の野心ではなく、日本側の軍事的な脆弱さだからだ。
安倍政権の対中外交の成果は「邦人解放数」で評価されるべきだ
トランプ大統領はボルトン安全保障補佐官の後任にオブライエン氏を据えている。オブライエン氏は人質交渉のエキスパートである。トランプ政権下では既に北朝鮮から人質を解放したケースも含めて20名が外国における不当な政治的拘束から解放されている。米国人は政治的拘束のターゲットになりやすいが、それでも不当に拘束された人々を救い出す努力が数値的な成果として出ていることは重要なことだ。
トランプ大統領が人質救出で成果を上げられる理由は、独自の外交・安全保障に関する能力があるからだ。日本政府が中国から人質を本気で取り戻そう、今後新たな犠牲者を出さないようにしようと思うなら、防衛費増額、そして自主防衛力の整備は欠かすことができない。
日本政府はアフリカなどの国々に無駄に資金援助でばらまく前に、まずは自国の防衛と邦人救出に全力を注ぐことが当たり前だ。中国に経済的に対抗できず、軍事的にも劣後し、自国民の不当な拘束すら解放させられない日本が主張することなどを第三国がイザという際に聞く耳を持つわけがない。
安倍外交の対中政策の成果は「中国に拘束されている日本人の解放数」、そして「邦人を二度と拘束させないための対応措置の内容」で問われるべきだ。安倍政権は中国の軍事的脅威に真正面から向き合うことが必要であり、自立した国家として当然の対応を行うべきだろう。