NHKのネット同時配信を止めて未来は拓くのか

山田 肇

この一月あまり海外の仕事が多かったが、帰国して過去ニュースを調べ驚いた。驚きの第一弾は総務省がNHKのネット同時配信案に再検討を要請したというニュース。ネット業務の費用を受信料収入の2.5%までに押さえてきたが、今回の計画では約3.8%に膨れ上がるため再検討を要請したという。

NHKの同時配信に突然待ったをかけた高市総務相

放送法と電波法によって、電波を用いて公衆に直接受信されるのが放送と定義されている。ネット配信は電波を用いないので本来業務からは外れ、補完事業である。だから2.5%以下で行うべし、というのが総務省のロジックである。

情報通信政策フォーラム(ICPF)では先月にミニシンポジウム「放送産業の未来」を開催した。そこで聞いた英国の状況と違い過ぎる。すでにシンポジウムの様子は公開したが、ポイントを紹介する。

BBCは1997年にネットをラジオ・テレビに次ぐ第三のメディアと位置付けた。ウェブサイトを「BBC ONLINE」に統一し、2008年には同時配信も提供するようになった。当初は地上波放送との共食いが懸念された。10年掛かって、BBCへの接触点が増えたと認識されるようになった。これからはますます同時配信が表玄関になる。

放送には視聴者にリーチする力がある。しかし、視聴データの収集は電波ではできない。今後は世界をターゲットにするので、視聴データを基に自社サービスを向上させ顧客満足度を高めるということが重要になっていく。それができるのはネット配信である。

2034年時点で地上波に頼る世帯が300万から400万残ると予測されている。これらの世帯にどう対応して公共的なコンテンツを提供し続けるか、その方策が規制官庁Ofcomに認められればBBCは電波返上へ進みたい、と考えているようだ

BBCが電波を返上すれば、その帯域は移動通信に利用できるようになる。移動通信の帯域増は、放送番組を含め多様なコンテンツがさらに潤沢に流通する社会を生み出す基盤になる。スマートシティなどにも電波がますます必要になる。

英国が1997年にネットを第三のメディアに位置付けたのに、わが国は20年たっても放送サービスの補完事業として位置付けられており、見直しの機運はない。セミナーでも話が出たように、放送事業は今後世界をターゲットしていくだろう。総務省の要請はそんな未来を見ない近視眼である。

山田 肇