「ネットは東京をオワコンにする」という主張はなぜ炎上したのか?

黒坂 岳央

こんにちは!黒坂岳央(くろさかたけを)です。
※Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

これまで一極集中が続いてきた東京がオワコン化する、という主張がはてなダイアリに投稿されました。

Sofia Terzoni/Pixabay:編集部

投稿者の主張をざっくりまとめると、

・ネットが東京の優位性を無効化する。
・文化的な体験も仮想世界へと移行する。
・東京一極集中はリスク。

というものです。東京オワコン化、について私見を述べます。

ネットは決して万能ではない

投稿者の主張によると、「ネットがあれば、物理的な障壁は取り払われる」と読み取れます。

投稿者だけでなく、「ネットは万能なツール」と考える人がいますが、決してそんなことはありません。「ネット通販があれば秘境に住める」という人がいます。が、私が住んでいる場所は、ネットスーパーの配達可能地域外でサービスを受けることはできません。そのため、徒歩だと1時間かかるスーパーまで、自分で車を運転するしかないのです。

また、子育てを考えると、ネットはまさに手も足も出ない領域です。どれだけAIやロボットの進展があろうとも、子供は人間にしか育てることはできないのです。介護も同じで、老人がロボットから食事やお風呂のお世話を受けるイメージはあまりできないように思えます。

確かにネットにより、世の中は本当に便利になりました。しかし、それでも尚、ネットが人間に提供できず、人間にしかできないものは、あまりにもたくさんあります。人間が一極集中する、「東京」という特殊と言っていいエリアに身を置くことは、この人間にしかできないものやサービスが便利であるという事実がありますから、そういう意味で東京に住むことは、「他の地方にはない価値」があると言えるのです。

ビジネスはやっぱり東京が有利

筆者はいろんなビジネスをしていて、収益の多くをネットから得ています。高級フルーツのネットショップ販売、英語のeラーニング、商業出版、ネット記事執筆、雑誌からの取材などネットだけで完結してしまいます。しかし、中にはどうしてもネットではできないビジネスもあります。

その一つは「講演」です。これまで講演をしてきて、「講演については、ネットは絶対にリアルには勝てないな」と感じさせられます。オンライン講演と、リアル講演を比較するとオンラインの方が敷居が低いように思えます。参加者も遠方の会場まで足を運ぶ必要がなく、スマホさえあれば自宅から参加できます。はてな投稿者からは「ほら、やっぱりネットがあれば東京なんて不要だ」と言われてしまいそうです。しかし、開催してみると参加者の反応はまるで違います。

同じ参加者リストに講演の告知を送っても、やはり圧倒的にリアル講演の方が集まりが良いのです。東京で開催すると告知しても、北海道、鹿児島といった場所から飛行機でホテルを手配して参加してくれる方も出てきます。もちろん、参加中は居眠りなどせず、2時間、3時間という長丁場に付き合って話を聞いてくれるのです。講演の場合は「講演内容の情報」だけでなく、講師と直接会えるという付加価値もあります。これはネットでは得られない価値です。

それがオンラインだと、リアル講演に参加してくれる時ほどの熱狂は感じません。少し参加して、途中抜けがあるなど、意識的コミットメントもないのです。

また、こうしたリアル講演を開催する場合において、東京という地域はやはり集客力に圧倒的な力があります。同じ内容のセミナーを地方で開くのと、東京で開くのとでは参加率が何倍も違います。

ネットだけで完結できないビジネスは、今もこれからも東京が強いことに間違いありません。

体験とは五感を使うもの

投稿者は「文化的な体験は仮想世界へ移行する」と主張し、東京優位に一石を投じています。

確かに仮想世界で体験するステージも、VRやARの進化で新たな選択肢がもたらされる可能性はあるでしょう。が、私はこちらの主張にも、一部は賛同しても、全面的にはできません。なぜなら、体験とは五感を使うものであって、いかに仮想世界を構成するテクノロジーが発達しても、リアルでの体験にはかなわないからです。

「ストリートビューがあるから旅行なんていらない」という人も、実際にアメリカのグランドキャニオンに身を置いた場合と、ストリートビューで身を置いた場合とを比べても、同じセリフは言えないと思うのです。両者の差は「文脈」にあります。

私はグランドキャニオンに実際に降り立った経験があります。ロサンゼルスから飛行機に乗り、ネバダ州に入ると地平線まで続く砂漠、巨大な湖と川が登場します。また、グランドキャニオンの谷底からは、地球が歩んだ20億年の歴史が蓄積した地層をみることができます。そこで感じる気温や吹いている風の匂いも含めて、グランドキャニオン観光が完結するのです。

ロサンゼルスから出発して、グランドキャニオンに降り立ったところまでの文脈があってこそ、グランドキャニオンの迫力が備わります。それをせず、いきなりグランドキャニオンだけを切り取って見せられても感動はないのです。

東京で開催される文化的体験も、文脈的意味と五感的な意味においてバーチャルだけでは完結しないと考えます。やはり、どこまでいっても「肌で感じる」のです。

私は東京はオワコン化することはないと思っています。もしも、あるとすればそれは日本がオワコン化する時です。無人島で一人で住んでいる人がいないことから分かる通り、人は人がいないところでは、生きていけません(探せばそういう人もいるのかもしれませんが、極端な例を一般化して語ることは正しいとは言えません)。この前提が覆らない限りは、どれだけネットが進化しても東京がオワコン化することはないのです。

黒坂 岳央
フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」 代表

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。