我々が20年程前に立ち上げたSBI証券は、新しいインターネットのテクノロジーを駆使して、顧客便益性を高め手数料を徹底的に安くし、多くの投資家の賛同を得て今日の隆盛に至っています。顧客便益性を高める、投資家利益を追求する--創業以来の顧客中心主義というのが、我々の正に基本的な事業の精神であります。今日でもその気持ちは全く変わることなく我々は更にそれを達成するために、フィデューシャリー・デューティを投資の世界に徹底的に浸透させるべく、色々な技術革新を取り入れながら事業展開を進めています。
そういう意味では、今回日本経済新聞が「日本版フラッシュ・ボーイズ」などと題されたアイキャッチングな記事を書いていますが、私から言わせれば十分な検証なくして軽々に記事化すべき事柄ではないと思います。『米作家マイケル・ルイス氏が2014年に著書「フラッシュ・ボーイズ」で描いた米国株市場の状況が、日本でも繰り返されようとしている』 とは、余りに不勉強甚だしく幼稚な記事と言わざるを得ないものです。
上記書でマイケル・ルイス氏は、『株式の超高速取引トレーダーに売買注文で「先回り」される一般の小口投資家が不利益を被っている』とか「通常のデータ供給に頼っている市場参加者を超高速トレーダーが出し抜く構造的な要因がある」というような主張を行いました。対してそれが正しいか否かをデータ分析により検証したのが、米国カリフォルニア大学バークレー校のロバート・バートレット氏、及びジャスティン・マクラリー氏の両教授です。
その結果は「How Rigged Are Stock Markets? Evidence From Microsecond Timestamps」と題された51頁から成る論文に纏められており、結論としてマイケル・ルイス氏の主張は妥当ではないというふうになりました。以下ロイター記事よりの引用を御紹介しておきますが、私は此の論文につき極めて正しいやり方で検証を行ったものとして高く評価しています。
フラッシュ・ボーイズが掲げた2つの理論は実際に証明されていないと指摘。1つ目のマーケットメーカーが最適な価格を提供しないことで顧客を欺いているという考え方は「正しくないことが分かった」と述べた。さらにもう1つの超高速トレーダーがより素早く売買注文情報を入手して一般に出回るよりも前に取引を執行しているという説も「現実には起きていない」という。このため両教授による調査では、SIP(セキュリティ・インフォメーション・プロセッサ)と呼ばれるシステムを通じてより遅いスピードで供給される価格情報を用いる投資家が、不利な立場に置かれている証拠は乏しいことが判明した。
我々はと言うと、欧米でグローバルスタンダードと現在なっている注文形態TIF(タイム・イン・フォース)の導入によって、SBI証券の顧客全体で見た場合、実際に定量的にも非常に大きなメリットがあるということも我々自身の実証データから得ています。即ち、月間の約定価格の改善効果が約4000万円、手数料割引が約550万円ということで、此のエビデンスからも上記の両教授の実証分析は妥当であり、大いに投資家を利するものであると私は考えています。
更に言えば今回日経は、2019年10月からのTIFで、板乗りする僅かな時間にアルゴリズムを使うHFT(ハイ・フリークエンシー・トレーディング)が個人投資家の注文を先回りしている可能性がある、と論ずるわけですが、そもそもHFTは元よりどの投資家においても、東証に「いつ、いくらで、どれだけ」の注文が回送されるかは、原理的に確定情報は知り得ないのです。
- PTSの注文は、SBI証券の顧客の注文であるかも含めて、誰の注文か分からない。
- PTSの注文が、SBI証券の個人投資家の注文であったとしても、当然、それがPTSで約定し、東証に全く回送されない場合がある。東証に回送される場合であっても、「成行」であるのか、「指値」であるのか、指値の場合に「いくら」であるのか、また、PTSで一部約定する場合もあるため「何株」であるのか、分からない。
- PTSの注文は、当然、全市場参加者が見られる情報であり、HFT業者も含めた多数の市場参加者が存在するため、ある一つのHFT業者が先回りしようとしても、個人投資家も含めた他の市場参加者がPTSの注文を取りに来る場合も容易に想定される。
- そもそもSBI証券の個人投資家は、発注毎に「SOR」、「東証」、「PTS」から選択することができるが、「SOR」ではなく「PTS」を選択して発注している場合は回送されない。こうした顧客の選択については、HFT業者も含めてどの投資家も板情報から判定することはできない。
こうした状況をよく調べずして記事を書くことは、革新的技術を使いながら更なる投資家利益を追求しようとしている我々にとっての理由なき誹謗中傷であり、我田引水的な論説と言わざるを得ないわけです。記者が余りにも不勉強で専門的知識を習得すること無く、唯唯特ダネ記事のような調子で全く魅力の無い記事を書いている、としか言えません。
また、我々が考えている売買手数料ゼロ化というのは既に米国で起こり出していることであって、それを具現化すべくHFTのリベートがどうといった類とは全く関係のない話です。本日出された「日本版フラッシュ・ボーイズ」の(下)ではリベートと関連付けられていますが、我々はそんなつもりは毛頭ありません。勝手な妄想でSBIグループを誹謗中傷する者とは、私は断固として戦います。
私は先ずブローカレッジのコミッションを全体の5%にし、それを前提として手数料を無料化にするという基本方針を立てています。そしてそれが5%以下になりますと手数料ゼロ化の影響はそれ程大きなものではなく、同時に之による御客様の増加で補って余りあることだと確信しています。
チャールズ・シュワブのCEOが言うように、時代の流れとして不可避的なものは先にやる者が基本的にはメリットを得、やらなければ負けるのです。我々はこれからも、顧客中心主義に基づいて徹底した合理化とテクノロジーの最大限の使用を心掛けます。之が、我々のスタンスであります。
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