現在、極左右の大同団結が強くみられるのは、改憲反対論であるかもしれない。安保法制の時以来、マスコミに頻繁に登場し、2016年には参議院選挙に立候補までした、いわゆる「憲法学者」を代表する小林節氏が、右派系雑誌の『月間日本』に寄稿しているのを、最近は極左とまで言われている『Harbor Business Online』が取り上げて記事にしているのを見た。
国家を私物化する安倍政権の改憲を許すな。自民党案に潜む「罠」<小林節氏>
日本の政治闘争図において小林氏が果たしうる役割については、まあどうでもいい。しかし小林氏がいつも「法学者」などの肩書を持って現れるので、その点は気になるので、コメントしておきたい。
小林氏は、現在進行中の自民党の改憲案に反対する。必要最小限の自衛権を持つ、と言う考え方がおかしいからだという。なぜなら、それでは「必要な自衛の措置ならば、何でもできるということです。極端に言えば、自衛隊は地球の裏側にも行けるということです」ということだからだという。
ところが結論部分で小林氏は、次のように主張する。
「国際情勢が厳しくなる中で、左派の平和主義が説得力を持ちにくくなってきているのも確かです。安倍政権による改憲を阻止するためには、専守防衛によってわが国の安全保障を維持できることを明確に示すことが重要です。わが国には、世界有数の経済力と技術力があります。その力によって、9条の範囲内で「専守防衛」の能力を高めることができます。」
現代世界の日本の現状で、「わが国には、世界有数の経済力と技術力があります。」なる主観的な断定を、法律論の根拠にしている「法学者」については、まずは年齢をチェックする。それはともかくとしても、必要な自衛権を持つのはダメだが、「専守防衛」ならいいのだ、という主張は、全くわかりにくい。
ちなみに「必要性」に、「均衡性」の原則を重ねて自衛権を制約するのが「国際法」の原理である。「憲法学者」小林氏は、こうした現存する法規範を無視する。
そして「憲法学者」小林氏は、「専守防衛」などといった、実定法上の根拠がなく、内容も曖昧模糊とした概念を振り回す。
日本では「憲法学者」とは、存在している法規範を無視し、実定法上の根拠のない概念を信奉することを主張する者のことになってしまっている。ちなみに小林氏の集団的自衛権違憲論は、実定法上の裏付けのないドイツ国法学の怪しい国家の自然権論に依拠した「憲法学者」特有の主張の典型例だが、学術書における説明がないので、私は自分の著書では小林氏を取り上げたことはない。
小林氏のような「憲法学者」によって、憲法論は政争の一部となり、真面目な学術的議論が全く考慮されない状態に陥ってしまっている。
野党勢力と一緒で、自らへの信頼性を犠牲にしてでも、あらゆる手段を使って改憲を阻止する、という捨て身の戦法である。
実際に現在の混乱状況では、改憲は果たされないだろう。それで彼らは満足をするのだろう。だが長期的に損をするのは、真剣な憲法論を求めているはずの普通の国民ではないだろうか。非常に嘆かわしい。
篠田 英朗(しのだ ひであき)東京外国語大学総合国際学研究院教授
1968年生まれ。専門は国際関係論。早稲田大学卒業後、