老後のための不動産学

不動産は墓場まで持っていくことはできません。が、死ぬ時まで後生大事に抱え込むのも不動産です。私は不動産の仕事を30年もやっていますが、以前から日本では不動産所有がそこまで絶対的ではないと言い続けています。そして住宅に限れば一部の場所を除き、日本の不動産が今後も健全で安定的な上昇をするとは考えにくく、資産としての目減りがあると考えています。つまり、不動産が主導するデフレであります。

(写真AC:編集部)

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居住用不動産は経理で考えれば貸借対照表の固定資産であります。戸建て住宅を買った際の経理の仕分けは例えば土地3000万円、建物2000万円と表記します。なぜ分けるかといえば土地は減価償却しないけれど建物は木造なら22年かけて償却し、日本の経理基準ならば22年後は2000万円が概ねゼロになるからです。

もちろん、実態はゼロではなく、多くの方が築〇十年の家にお住まいです。ただし、第三者への売却価値となるとゼロなんです。住める住めないという問題もありますが、買い手からすれば住宅ローンがつかないうえに家の間取りを気に入ってくれるかどうかという点もあります。

2000万円の家が22年でゼロになることを経理的に考えてみましょう。年間約90万円ずつ家の価値が下がる、月に直せば76000円なんです。更に固定資産税や管理費、住宅ローンの金利がかかります。これらの費用は経理の損益計算書のコストに反映されます。ざっくり均して月十数万円が所有する不動産のコストとして消えていくのです。居住用不動産からの収入はゼロですから初めの22年間は毎月それだけのお金を垂れ流していることになります。22年を超えると確かに月々のコストはガクッと減ります。多くの方は「それでも自宅は持っていたいよね」というのはこのことなんです。

老後のための不動産学と述べたのは健康で通常の生活がいつまでできるかという保証がないことを前提に考える必要があるからです。例えば階段や段差がだめ、という方も出てくるでしょう。老人ホームに入居することもあります。あるいは健康なときは駅から15分の距離も問題なかったのに今じゃとても駄目、という人もいます。

先般の台風で武蔵小杉のマンションで水害が発生し、エレベーターが機能せず、高層階を徒歩で行き来しなくてはならない事態が発生しました。その時、地元のホテルはすぐに満杯になったと報じられていました。「とてもそんな階段、登れない」であります。今はよくても何が起きるかわからないのが人生と天変地異であり、それに対して不動産は換金しにくい資産なのであります。

マンションの場合はもっと面倒です。なぜなら管理費が持ち続ける限り発生するからです。ざっくり㎡あたり200円ぐらいでタワマンだと250円ぐらいでしょうか?100㎡なら2万円から2万5千円です。また修繕積立金が㎡あたり150円、タワマンで200円ぐらいですから1万5千円から2万円です。つまり、月々3万5千円から4万5千円プラス固定資産税がかかるということです。

不動産所有は実は金食い虫ということを認識する必要があります。

次に不動産は一生に一度の買い物ではなくなってきている点を考えたいと思います。仮に35歳で戸建てを買ったとすれば償却は57歳で終わります。80歳まで健全でいるとすればあと23年あるんです。平均余命が伸びている時代です。同じところに45年住むかという話です。私の周りではリタイア後に戸建てから駅近のマンションに引っ越す人がぽつぽついるのですが、ライフスタイルの変化に合わせているとも言えそうです。

三番目に不動産を誰に継ぐのか、であります。ただでさえ少子化、かつ、子供たちは自分の住むところを確保しているとなればかつて「いつかはお前にやるからな」と偉そうに言っていたお父さんは息子から「そんな不動産いらんよ」とそっけない返事にがっかりすることになります。

まだ都会の住宅ならともかく地方で山林田畑となれば都会に出てしまった子供たちにとって近寄りたくもないという話はいくらでもあるでしょう。山林など「あの山のあのあたりがうちの山だ」というのは山崎豊子の小説にもあったと思います。「そんなものいらん」と思っている人が中国人あたりに破格の金額で売ってしまい、はっと気がつけば北海道の山林は中国人が買い占めていたというのが実態です。

もともと日本が土地の所有権放棄を認めていなかったためですが、今度これが見直される機運が高まっています。当たり前です。国防上重要な課題なのに国も随分おおらかだったと思います。

不動産を取り巻く環境は大きく変わっています。そして日本の独自性故、不動産価値が海外のように高値で維持できなくなっています。海外では不動産投資は健全なる資産分散化として評価されますが、日本では仕組み的に難しいと考え、資産ではなく消費財(コモディティ)としてみておいた方がよいと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年11月27日の記事より転載させていただきました。