10年前発売された拙著『安岡正篤ノート』(致知出版社)の第2章で、私は「陽明学を日本に普及させた安岡正篤」と題し次の通り述べました--「悪が必ずしも滅びるとは限らない」「力の強い者が勝つ」と考えるような人たちが出てきているのは、日本人の遺伝子が変異してきているためかもしれません。しかし、これは日本人らしさを失うことに他なりません。性善説、勧善懲悪という考え方は、時代を超えて訴え続けていくべきものだと思います。
私は「正義は必ず勝つ」「悪はろくなことはない」といったことを、テレビドラマ等を通じ日本国民に啓蒙すべきと思うのですが、嘗て小生が子供時代に観ていたような勧善懲悪の番組は今非常に少なくなっているように感じられます。
或いは、「積善の家には必ず余慶(よけい)有り」(『易経』)とのエッセンスが入ったテレビ番組があれば良いと思うのですが、何故かそうした類が無くなって行っており私は此の現況を大変憂慮しています。
「正義は必ず勝つ」というようなテレビドラマを子供時代に観て育てば、悪い思いになる人は少ないでしょう。例えば『水戸黄門』を観て、悪代官を最後に遣っ付ける単純なストーリーだと思う人はいるかもしれませんが、その結末が悪い終わり方だと思う人はいないでしょう。訳の分からぬ終わり方で何かスッキリしない結末の番組は、最早不要ではないでしょうか。
我国が「世界一安全な国」で在り続けようとするならば、国民の道徳心や良識を更に高めるためのテレビ番組を制作して行くことが極めて大事になります。
或いは、これからかなり増えるであろう移民に対しては、「日本社会においては○○○が非常に重要視され、○○○から逸脱する行為者は、逆に著しく軽蔑される」、といった具合に道徳的教育を施して行かねばなりません。
その時、彼等を何に同化させるのかと言えば、それは、日本人が持っている伝統的な良き特質に同化させることに他なりません。
例えば今月2日閉幕したラグビーワールドカップ日本大会でも「おもてなし」が随分評判になりましたが、之は我国民が有するトラディションの良き特質の一つに違いないわけです。武道における「礼に始まり、礼に終わる」という精神等々そういうものを残して行くために、マスコミ関係者は「如何なる番組を作るべきか」「どういう思想を日本国民に子供時代から持たせたら良いか」等々よくよく考えて、その職務に当たって貰いたいと思うのです。
取り分け国税の如く視聴料を徴収するNHKに対しては、その受益者負担に反する側面に不公平感を持っている人も沢山います。それだけにNHKの大事な役割というのは、国民の知的水準だけでなしに道徳的水準も上げ、日本をより一層住み易く・明るく・高潔な世界に誇るべき社会に導いて行くよう注力することだと私は考えています。
今年の大河ドラマ「いだてん」は、来年のオリンピック東京開催に合わせてみたものの、続く視聴率低迷が報じられます。
しかし、そもそもが視聴率を気にしなければならないのは民放テレビ局であります。毎年この時期に、NHK紅白歌合戦の視聴率がどうだこうだと騒ぎ立てるのもナンセンスです。NHKは唯々、日本人らしさの維持・発展に資する真面な番組作りに日々真摯に向き合うのです。
そして、我国の人民の知的・道徳的レベルをより高い方向に誘導して行くよう尽力し続けるべきだと思います。
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