11月29日の日経新聞に福井元日銀総裁の口述回顧が載った。これは日銀金融研究所が16~17年に実施し、18年に内部向け非公開資料としてまとめたもので情報公開法に基づく請求を受けて開示されたものだそうだ。これを読めば今の異次元緩和が、金融の専門家から見ればいかに危険で異常であることがわかる。
福井総裁曰く「着任後は長期国債は買い増ししないとひそかに決めた」「私は、長期国債を抱えすぎて、あとでポートフォーリオのバランス上、非常に問題が起こる、あるいは財政政策との敷居が低くなりすぎるというリスクは避けようとした」。
福井総裁が2003年3月に着任した当時の日銀の長期保有額は58兆円。58兆円でも「もう増やしちゃいけない」と福井総裁が思っていたのにいまや469兆円なのだ。お、お、お、だ。
日経1面の解説では「(長期国債購入額は)量的緩和を始めた前任の速水総裁時代に大きく増え、月1兆2000億円ペース(藤巻注:年14兆円ペース)で、黒田総裁時代の国債購入(ピーク時)には年80兆円ペース、現在は購入額を減らして20兆円」との記述になっている。これだと現在の長期国債購入額は速見総裁時代と変わらない、と誤解、たいしたことないや、となってしまう。もう少し詳しい説明が必要だと思うので、ここに説明する。そうしないと現在の異次元緩和の異常さが伝わらない。
私が銀行員だった時代(2000年3月まで)、日銀は長期国債をほとんど買っていない。短期国債ばっかりだから満期が到来する長期国債など無かった。だから速水総裁や福井総裁の時代の日銀の購入額は保有長期国債増加額と同じだった。しかし現在は満期国債分を再度購入しなくてはならない。80兆円や20兆円という目標は、保有“増加”額だ。日銀の購入額はそれに満期が来た分が加わる。
だから平成29年度は96.2兆円をも購入している。速水総裁時代の月1兆2000億円ペース(=年間購入額14兆円)の購入額とはケタが違う購入額なのだ。
国債発行額は141.3兆円 だから発行国債額の70%をも日銀が購入している。
福井総裁も当時、出口を心配されていたが、当時の国債発行額は139兆円 日銀購入は
14兆円だから、日銀は、発行市場のたった10%しか購入していない。
市場の10%しか購入していない買い手が購入を辞めるのと今のように70%が購入していた買い手が撤退するのでは市場の崩れ方のマグニチュードが違う。現在は桁外れに出口が難しくなったということだ。私が出口はもうないという理由の一つだ。
福井総裁は国債市場が暴落したときの国債の評価損、それに伴う円の暴落を心配されていたのだと思う。
中央銀行は、価格が大きく上下して例え評価損に過ぎなくても債務超過になるような資産を持つべきではない。福井総裁が「あとでポートフォーリオのバランス上、非常に問題が起こる」と懸念した理由の一つだろう。
元モルガン銀行東京支店長。ジョージ・ソロス氏アドバイザーを歴任。一橋大学卒、ケロッグ経営大学院修了 MBA取得。学校法人東洋学園大学理事。仮想通貨税制を変える会会長。2013年〜19年、参議院議員を務めた。オフィシャルウェブサイト、Twitter「@fujimaki_takesi」
編集部より:この記事は、経済評論家、前参議院議員の藤巻健史氏(比例、日本維新の会)のFacebook 2019年11月30日の記事をアゴラ用に加筆・編集したものを掲載しました。藤巻氏に心より御礼申し上げます。