ドイツとオーストリア両国の社会民主党は支持者を失い、元気がなくなってきた。
「政党が破産寸前に追い込まれる時」というタイトルのコラムの中で少し語ったが、オーストリア社民党は戦後から常に政界の中心にあって国を引っ張ってきた実績があるが、同党の現状は、もはやその面影さえ感じないほど低迷している。一方、ドイツ社民党(SPD)は30日、党員選挙で空席だった党首(2人党首制)を決めたばかりだが、メルケル連立政権に残るか、連立から離脱するかで党の最終決定が控えている。
オーストリア国民議会(下院定数183)に議席を有している政党は5党だ。中道右派「国民党」、極右政党「自由党」、「緑の党」、リベラル派「ネオス」、そして中道左派「社会民主党」だ。5党の中で左派系は「緑の党」の一部を除くと社民党一党だけ。
一方、ドイツの場合、中道右派「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)と左派「社会民主党」の2大政党が政界をリードしてきた時代は確実に終わろうとしている。極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が急台頭し、リベラル派「自由民主党」、「同盟90/緑の党」、そして「左翼党」が存在する。ドイツの左派政党は「社民党」と「左翼党」の2党が存在する。
例えば、旧東独のテュ―リンゲン州議会選が10月27日実施され、ラメロフ首相が率いる与党「左翼党」が約31%の得票率を獲得、第1党に躍進する一方、極右政党AfDが前回選挙(2014年)比で12.8%増の得票率23.4%で第2党に大躍進した。すなわち、極右と極左政党が得票率を伸ばしたが、伝統的な左派政党の社民党は得票率8.2%と遂に一桁台に落ちた。
ドイツでもオーストリアでも伝統的な左派政党の社民党が急落し、連邦議会選、州議会選から欧州議会選まで連敗が続き、党首は次々と交代するなど、政党としての魅力を失ってきた。
SPD(1863年創設)は東方外交のヴィリー・ブランド、ヘルムート・シュミット、「新中道」を提唱したゲアハルト・シュレーダーといった時代の挑戦に立ち向かった指導者を輩出してきた政党だ。昔の社民党を知っている古参幹部の嘆きは深刻だ。
SPDの低迷は目を覆うほどだ。過去2年間で党首が2度、短期間で代わった。SPDは2017年3月19日、ベルリンで臨時党大会を開き、前欧州議会議長のシュルツ氏を全党員の支持(有効投票数605票)でガブリエル党首の後任に選出し、メルケル首相の4選阻止を目標に再出発した。シュルツ氏は停滞する党勢を復帰してくれる救世主のように期待されたが、その後の3つの州議会選(ザールランド州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、そしてドイツ最大州ノルトライン=ヴェストファーレン州)でことごとく敗北を喫し、本番の2017年9月24日の連邦議会選ではSPD歴史上、最悪の得票率(20.5%)に終わった。
シュルツ党首に代わり、社民党初の女性党首としてアンドレア・ナーレス氏が昨年4月に就任したが、ナーレス社民党もシュルツ氏と同じように選挙の度に支持率を失っていった。SPDは昨年10月14日のバイエル州議会選では第5党となり、AfDの後塵を拝した。5月26日に実施された欧州議会選では社民党は15.8%と前回(2014年)比で11.5%減と大幅に得票率を失う一方、同日に行われた独北部ブレーメン州議会選でも戦後からキープしてきた第1党の地位をCDUに奪われるなど、散々な結果で終わった。ナーレス党首は今年6月2日、その責任を取って党首と連邦議会(下院)の会派代表のポストを辞任表明した。
ところで、SPDでは先月30日、党員選挙の結果、党内左派のサスキア・エスケン連邦議員とノルベルト・ワルターボルヤンス・ノルトライン・ウエストファーレン州元財務相の2人組が決選投票で53.06%の支持を得て、前評判が高かったオーラフ・ショルツ財務相とブランデンブルク州のクララ・ゲイウィッツ議員組を破り、次期党首ペアに選ばれた。
連立懐疑派の党内左派の党首ペアが選ばれたことで、社民党内でメルケル連立政権からの離脱の声が強まることは避けられない状況だ。そうなれば、メルケル政権は来年初めにも少数政権の道を行くか、早期選挙を実施するかの選択を迫られる。
両国の社民党が後退してきた直接の契機は2015年の難民の殺到だ。欧州で15年夏以降、中東・北アフリカから100万人を超える難民が殺到した。その難民の受け入れで欧州連合(EU)加盟国内の意見が対立。最大の難民が殺到したドイツやオーストリアでは国内が2分した。
オーストリアではクルツ党首が率いる国民党が、ドイツではAfDがいち早く国境の警備強化を主張し、有権者の支持を得た一方、難民受け入れを支持したり、曖昧だったドイツ社民党やオーストリア社民党は支持を失い、選挙では後退を余儀なくされていった。両国では2015年の難民殺到をきっかけに、極右政党(ドイツではAfD、オーストリアでは自由党)が躍進し、左派政党が後退するというとトレンドが鮮明化していった。
オーストリア社民党は財政危機で破産寸前に追い込まれている。社民党は党の財政赤字を救済するために102人の連邦党職員のうち、27人の職員の解雇を通告したが、その27人と彼らを支持する党関係者が先月29日、党幹部の決定に抗議するデモを行った。「労働者の党」を標榜し、労働者の味方を吹聴してきた社民党が党本部職員に対しクリスマス直前にメールで解雇通告を出したのだ。このニュースが報じられると、労働者の味方の社民党の自殺行為だ、といった批判の声すら飛び出してきた。
2015年以降、欧州の政界は右傾斜になったが、グローバリゼーションと自由経済で貧富の格差が一層拡大し、若い失業者が増加してきたことを受け、反資本主義、反グローバル化が台頭してきた。欧州でもここにきてパワーフルな左派政党の台頭を願う声が出てきたのだ(「アンチ資本主義の後に何が来るか」)。米プリンストン大学のハロルド・ジェームズ教授は「アンチ資本主義が時代精神」と語っている。
経済重視、成長第一のワイルドな資本主義に対し、国民の福祉、年金制度の見直し、医療制度の確立など社会政策重視の政治を求める声が国民の中から出てきている。米民主党のバーニー・サンダース上院議員やエリザベス・ウォーレン上院議員など過激な左派指導者が党大統領選に出馬し、ホワイトハウス入りを目指しているが、時代精神の反映ともいえるだろう。
議会での論争には右派政党とそれに反対する左派政党の存在が欠かせられない。右派政党が議会を独占する政治は理想ではない。そのためには、イデオロギーに拘らず、実務的に柔軟に対応できる左派政党の指導者の登場が願われるのだ。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年12月2日の記事に一部加筆。