イラン最高指導者アリ―・ハメネイ師もハサン・ローハ二大統領も西側指導者との会談では常に「イスラムの教えと大量破壊兵器の製造は一致しない」と主張し、イランは核兵器製造の意図がないと説明してきたが、その発言の信頼性がここにきて揺れてきている。
ウィーンで6日、2015年7月のイラン核合意締結国、欧州3国、ロシアに中国の6カ国とイラン代表が結集して核合意の延命について話し合ったが、欧州3国(英仏独)はイランに核合意の堅持とミサイル開発の中止を要求し、「イランが合意に反し、ミサイル開発を継続するならば、国連安保理事会に制裁を要請せざるを得ない」と警告。イラン側は「米国からの圧力に、欧州は何もできない」と欧州の無能を批判した。
イラン核協議は国連常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国とイランとの間で13年間続けられた末、2015年7月に包括的共同行動計画(JCPOA)が締結されたが、トランプ米大統領が2018年5月8日、「イランの核合意は不十分」として離脱を表明した。米国がイランの外貨獲得源の原油輸出まで制裁したことを受け、イランは段階的に核合意を破棄し、ウラン濃縮関連活動を再開してきた。
イラン核合意では、イランは濃縮ウラン活動を25年間制限し、国際原子力機関(IAEA)の監視下に置く、遠心分離機数は1万9000基から約6000基に減少させ、ウラン濃縮度は3.67%まで(核兵器用には90%のウラン濃縮が必要)。濃縮済みウラン量を15年間で1万キロから300キロに減少などが明記されていたが、イランは、「欧州連合(EU)の欧州3国がイランの利益を守るならば核合意を維持するが、それが難しい場合、わが国は核開発計画を再開する」と主張。
今年に入り、濃縮ウラン貯蔵量の上限を超え、ウラン濃縮度も4.5%を超えるなど、核合意に違反してきた。11月に入り、フォルドウの地下施設でも濃縮ウラン活動を開始した。核合意ではウラン濃縮は同国中部のナタンツの一カ所となっている。
米国や欧州が懸念している点は、イランの核開発だけではなく、核搭載可能なミサイル開発だ。欧州3国の国連大使は6日、アントニオ・グテーレス国連事務総長宛ての書簡で、「イランは核搭載可能なミサイル(シャハブ3)実験を行っている」と指摘。
それに対し、イランのモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外相は、「米国に追従しかできない欧州は自身の無能さを隠蔽するために絶望的な虚言を発している」と反論。欧州3国の国連大使は、「イランは8月、イエメン内戦で中距離ミサイルを使用した」と指摘、「イランは明らかに2015年の核合意に反している」と述べている。
イランでは先月ガソリン代が急騰したことがきっかけとなって、各地で反政府デモが発生。治安部隊が強権で鎮圧。米国政府が5日、発表したところによると、「これまでに1000人以上が犠牲となった」という。
イランはイエメンで反政府勢力フーシを軍事支援し、シリア内戦ではロシアと共にアサド政権を支援。レバノンではシーア派イスラム組織「ヒズボラ」を支援するなど、紛争地域で武力支援を惜しまない一方、イランの国内経済は破綻寸前状況で、若い青年たちの不満は高まっている。
そのような状況下でローハニ大統領は年内にも日本を訪問し、安倍晋三首相と会談する予定という。イラン大統領の訪日は2000年10月のモハンマド・ハタミ大統領以来となる。
日本がイラン問題で欧米の調停役を演じる可能性は大きくない。米国は日本に対し、「イランの人権弾圧に対し懸念を表明するように」と圧力をかけてきている。イランは日本から経済支援を期待する一方、日本との関係を深め、欧米の対イラン包囲網を崩したい、といった狙いがあるだろう。
なお、安倍首相は今年6月、イランを訪問し、ハメネイ師とローハ二大統領と会談している。イランを取り巻く政治状況は6月より厳しくなっている。それだけに、安倍外交がイラン問題でどれだけの成果をもたらすか、世界が注目している(「安倍首相のイラン訪問に期待」2019年6月3日参考)。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年12月8日の記事に一部加筆。