「桜を見る会」問題について最初は野党相かわらずのあげ足取り攻撃とも感じ「もっと大事なことあるだろう」などと生温かくながめていたが、その後の不合理な釈明、まして出席者名簿をシュレッダーにかけた上データも削除し復元できないなどと安倍総理や菅官房長官が言い張るに及んで、さすがに深刻な不信感が胸中に沸き上がってきた。
もちろん世論調査でも多くの人が納得していない。(テレビでどなたかが「むしろあの説明で納得した人いるんだ?」とおっしゃったそうだが、まさに。)
内閣支持7ポイント減 50% 桜を見る会「納得せず」69%(テレビ東京)
実務能力や中庸さが支持されてきた安倍政権
筆者は普段政治的ポジションをもって何らか活動を行っているわけではないし、常に政治に対して是々非々のスタンスである。そんな私から見ても、第二次安倍政権の実務処理能力や安定感は、深刻な少子高齢化やグローバルでの競争激化など決して安泰とは言えない日本の現状から考えるに現実的選択と考えてきた。
安倍政権が支持されてきた背景として、”悪夢の”民主党政権に懲りた我々がより安定感のある政権を求めてきたことや自民党内外に強いライバルが存在しないことなど複合的な理由があると思うが、筆者が特に着目してきたのは安倍総理や菅官房長官の比較的には中庸、抑制的な人となりに対する安心感というものもあるように思う。
参考拙稿『安倍首相の「適温感」を、出身校の成蹊学園から考える』
とはいえ、政治とは極めて現実的・具体的な取り組みだろうから、100%の支持や評価ではなくても誰かにかじ取りを託す他ないし、あくまでそれは相対的な評価というものでしかありはしない。その点は何でも批判と揚げ足とりの万年野党的なスタンスが責任ある立場とは考えないがゆえ、せめて論考で支持や評価を表明してきた。
「断れない」かたちで近寄ってくる人々
だがこの展開、成り行きで露呈しつつある「後ろ暗い」部分はやはりまずい。結構深刻にまずい。
つまり色々論点が多い「桜を見る会」の件だろうが、特に一点私が底冷えするような薄ら寒さを感じるのは、所詮この政権も昔ながらの「大物」や「圧が高い人」「影響力がある」けれど公人としての総理大臣とオフィシャルな関係性を持たない人々といわゆる「ズブズブ」だったのだという現実に気づかされてしまった点だ。
社会人であれば大なり小なり経験し見聞きしたこともあるだろうが、このような人々は「断れない」人や関係性を頼って利用価値がある人に接触してくる。所詮は大した影響力もない一介のサラリーマンや公務員までにはやってこないようにも思うが、それなりの職務権限があったりすると巧妙に近づいてくる。
「大学の先輩」「恩師」「大変お世話になった人」「偉い人」などの糸を手繰り寄せるように近づいてきて、会わないとその大事な人のメンツをつぶしかねない。だから会うだけは会う。内心渋々だろうがなんだろうがそれなりの気遣いをしながらあくまで失礼のないよう対応する。
別に脅されるわけでも恫喝されるわけでもない。そうこうしている内に、その人自身が「立てなければならない人」「断れない人」そのものになってしまうし、彼らは自らがそういう立場になるよう仕向ける手管に長けている。
もちろん今時まったく流行らないやり方ではある。会社や役所のコンプライアンス意識が高くなったこともあるだろうし、特に若手ビジネスマンの合理精神や人付き合いの距離感からもそんな関係は今や理解し難い。
少なくともビジネスの現場では絶滅危惧種とも思うが、ところがどっこい逆に免疫がなくなった分もあり、局所的にそういう人々が結構な影響力を温存していたりする。
「関電小判事件」と同じ構図のしょうもなさ
どうしても重なるのが「関電小判事件」だ。
あの事件でも公的な役割とか権限とはまったく別の論理と影響力で「元助役」なる人物が関電の中枢に多大な影響を与えていた。
非難されるべきは、「元助役」の非公式な影響力が真っ当なルールより優先された醜悪奇怪さであった。
関電のケースでは恫喝や威圧も相当なものだったとのことだったが、公的企業の役員という「公(おおやけ)」の立場を預けられ、ましてそれなりの学も立場もある人々の体たらくはやはり残念という他なかった。
安倍首相も、「桜の会」出席者名簿を経緯はどうあれ公表しないと腹をくくった時点で、旧関電役員と同じ穴のムジナのそしりを免れない。「公(おおやけ)」より、私人としての安倍氏が「メンツをつぶせない」とか「迷惑をかけられない」と感じる人々への配慮を優先した。
それは、どう考えても「公人」トップとしての要件を著しく傷つける判断であり、逆に言えばそれほどに安倍首相の主観はテンパっているに違いない。
日本の総理大臣をしてこれほどの醜態をさらさせる関係力。
かつて日本の大都銀でさえわけのわからぬ勢力につけいられ、今更振り返るとなんとエリートのひ弱さと非エリートゆえ捨て身の突破力ある人々のしょうもない物語であった、
成果も少なくなかった最長期政権の最後がこんな有り様で終焉を迎えるだろうことは日本人にとって不幸なことこの上ないが、もっと不幸なのは安倍氏よりましな後継者が思い当たらないことに違いない。
秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。秋月涼佑のオリジナルサイトで、衝撃の書「ホモデウスを読む」企画、集中連載中。
秋月涼佑の「たんさんタワー」
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