「山本太郎現象」は一過性か?MMT理論を検証する

参院選後の「れいわ新選組」山本太郎代表の活動

前参院議員、山本太郎氏が代表の「れいわ新選組」は、7月の参院選で比例200万票を超える得票を得て、2人の議員を当選させた。その彗星のような躍進ぶりは各方面で「山本太郎現象」と呼ばれブームにもなった。

山本代表は、参院選後から、日本各地で精力的にタウンミーテイングを重ねてきた。各地の集会では、いずれも相当な数の支持者や有権者が参加している。

12月に入ってからも連日街頭演説を展開する山本氏(れいわ新選組YouTubeより)

山本太郎代表の看板政策「消費税廃止」

山本代表は、「野党共闘」のために、当面は「消費税5%への減税」を訴えているが、真の看板政策はやはり「消費税廃止」であろう。

しかし、「消費税廃止」は他の野党にとってハードルが高い。今のところ合意する野党は共産党ぐらいである。立憲、国民の主要野党は「消費税5%への減税」にすら合意していない。前身の旧民主党は、税と社会保障の一体改革を進めるための、「自公民三党合意」で消費税10%への引き上げに合意しているからである。

「消費税廃止」に代わる新たな財源20兆円

山本代表は、「消費税廃止」の理由として、低所得者への逆進性、消費の長期的停滞、実質賃金低下、消費税廃止による景気回復、などを挙げている。

上記の理由は概ね同意できる。問題は消費税を廃止した場合に、消費税に代わる新たな財源をどう捻出するかである。2019年度一般会計予算では消費税収は約20兆円にも上っているからである。

MMT理論(「現代貨幣理論」)とは何か

山本代表は、「消費税廃止」による新たな財源として、大企業・富裕層への課税強化を主張している。しかし、それのみでは到底財源不足のため、現在米国で注目されているMMT理論(「現代貨幣理論」)に基づく国債発行・財政出動による景気回復を、同代表は主張している。

MMT理論とは、要するに、「自国通貨で国債を発行し、国内で消化できる日本のような国は、財政赤字や政府債務の大きさにこだわらず、継続的に国債を発行し財政出動が可能である」という理論である。

主たる提唱者は、ケルトン米ニューヨーク州立大学教授である。同教授は、医療皆保険制度導入など、格差解消のためにMMT理論による積極財政を主張している。MMT理論の根底には、「国債発行による政府の財政出動は、その結果、民間に同程度の資産を形成する」との考え方が存在する。

MMT理論は、1930年代に有効需要拡大による不況克服のため政府による大規模な財政出動を提唱し、一世を風靡した「ケインズ経済学」との共通点がある。ただし、「ケインズ経済学」については財政赤字拡大の弊害が指摘されている。

MMT理論の有効性の検証

私見によれば、MMT理論の有効性を検証する場合は、短期的な有効性と長期的な危険性を区別して考える必要がある。

MMT理論の短期的な有効性については、日本の場合は、1兆3000憶ドルの外貨準備高、340兆円の対外純資産、1830兆円の個人金融資産、460兆円の企業内部留保、108兆円の国有財産など、国債発行を担保する資産が十二分に存在する。したがって、MMT理論にもとづく、国土強靭化対策、育児・教育無償化対策、先端科学技術開発投資、少子高齢化対策、等のための財政規律のある短期的な国債発行には特段の危険性はない。国内で十分に消化され、長期金利の上昇もなく、日本経済の成長発展にも有益だからである。

しかし、MMT理論にもとづき、長期にわたって大量に国債発行を繰り返し、財政規律を失えば、やがて、国内消化が困難となり、長期金利の上昇をもたらし、政府の金利負担は莫大となり、最終的には財政破綻に陥る危険性が極めて大きい。ハイパーインフレの可能性もある。

結局、MMT理論は、日本においても短期的には有効であるが、長期的には財政破綻の危険性がある、ということである。

一過性か?「山本太郎現象」

山本代表が、財務省主導の消費税増税に対して根本的な「問題提起」をしたことは一定の評価ができる。また、同代表のMMT理論に基づく国債発行の主張は、日本経済の成長発展に有益な、「使途を限定した財政規律のある短期的な国債発行」に限るものであれば、一定の有効性が認められ是認できる。

しかし、仮に、同代表の主張が、MMT理論に基づく「財政規律のない長期的な大量の国債発行」までも容認するものであれば、最終的には財政破綻に陥り極めて危険であるから到底是認できない。その場合は、日本国民多数の支持は得られず、「山本太郎現象」は一過性で終わるであろう。

ちなみに、筆者は、1998年7月の参院選に目玉政策として「消費税撤廃」を掲げた「自由連合」(代表=徳田虎雄 元衆議院議員)公認候補として滋賀県選挙区より立候補したが、選挙民から上記「消費税撤廃」につき支持を得られなかった経緯があることを付言しておきたい。

加藤 成一(かとう  せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。