“反日知識人”が痛烈に右翼言論を批判:池上氏、半藤氏対談本

中村 仁

気骨を示した池上、半藤両氏

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時事解説の池上彰氏、近現代史に詳しい半藤一利氏が対談の新書(幻冬舎)を出版しました。本のタイトルは『令和を生きる』と平凡だし、売らんかな商法の幻冬舎なので、始めは買う気が起きませんでした。書店で手にとってみると、右翼言論に鋭い批判を浴びせており、通読する気になりました。

池上氏はNHKのOBで、多数のテレビ番組に出演、解説書もおびただしい数にのぼります。半藤氏は週刊文春、月刊文芸春秋の編集長を務め、現在は作家と名乗っています。出身母体からしても、二人は代表的な知識人、ジャーナリストといっていいでしょう。二人とも「反日」と言われているそうです。

池上氏は「反日ジャーナリスト」の認定を受けていると、いいます。中国の国家体制を取り上げた番組で「中国が民族としておかしいわけではない。共産党の一党独裁が問題なのだ」と、いったとたん「中国を擁護した」との批判を浴びたそうです。「中国人に対して差別的な発言をしなかったことが批判の対象になる」と言うと、半藤氏は「自分の発言が反日、反日ということで炎上したことがある」と振り返ります。

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これに半藤氏は「中国人を悪く言わなかったら、それが反日か」と、応じます。全ての人がそうではなく「そう勝手に認定する連中がいるのです」と池上氏。ネットで見たいものだけを見ている時代状況になっている。韓国はけしからんとするサイトを見ると、「韓国の悪口ばかりが出てくる。嫌中、嫌韓が金儲けの手段になっている。クリックが殺到してサイトは広告料をとれるから」とも。

国防問題では、「日本は海岸線が長い。日本は地政学的に、守るのは非常に難しい国土」(半藤氏)、「日韓、日朝が対立したままでは、東アジアの安定のため、日本のためによくない」(池上氏)、「当然。ところが困ったことに05年ころから、大きな声で嫌韓を唱える者が多くなった。そういう風潮だから、国防問題をまともに話すことができなくなっている」(半藤氏)と、率直です。

新聞広告を派手に掲載する右翼雑誌の主なテーマは、嫌韓、嫌北、国内野党に対する批判、天皇論などです。言論雑誌というにしては、韓国、北朝鮮、中国批判以外はあまり見当たりません。世界はもっと広いはずです。また、新天皇の即位の儀では「皇居に奇跡の虹が」という信仰的な見出しの記事が掲載されました。「グズ野党に鉄槌を」とかも。これでは論壇時評で扱われないはずです。

天皇の生前退位については「NHKのスクープに首相は立腹だったようだ」(池上氏)、「安倍政権を支える日本会議はかなり早い段階から生前退位に反対していた。天皇は存在しているだけで意味がある」(半藤氏)。災害地の見舞いでも、「天皇が上着を脱いでネクタイも外し、被災者と同じ目線で話かける姿は右翼から評判が悪かった」と。天皇を神格化したい考えなのでしょう。

影響力が大きい日本会議

日本会議は、神社ほか多様な宗教団体によって構成された最大の右派団体です。「男系による皇位継承」「押し付け憲法論に立った憲法改正」「教科書における自虐的記述の是正」「首相の靖国神社参拝」などが目標でしょうか。議員懇談会には、首相、副総理、多数の自民党議員が名を連ねています。

自民党の憲法改草案(2012年)について「日本会議系の組織の案がそっくり盛り込まれている。特に重視しているのが元首、9条、緊急事態」(半藤氏)と指摘しています。「憲法改正のハードルを低く、改正しやすくしようとしている。公益と秩序のため、緊急事態に備えるためには、言論の自由はない」(池上氏)と、批判しています。

全章が右派言論の問題に割かれているわけではありません。北方領土の返還交渉では、プーチン露大統領が安倍首相にこういったそうです。「そこに米軍基地を造らせないというけれど、沖縄の新基地反対が叫ばれているのに、政府・与党はそれを無視している。日本は米国の要求に逆らえない国なのだ。北方領土でも同じことになる」と。返還交渉が進まない理由が示唆されています。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年12月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。