未婚ひとり親の所得税軽減実現 ~ さらにフランス並みの子育て支援を!

太田 房江

悲願の未婚ひとり親寡婦控除実現!

昨日(12月12日)、自民党税制調査会で、年間所得500万円以下の未婚のひとり親にも寡婦(夫)控除を適用し、税負担を軽減する方針が決定しました。

これまでの寡婦(夫)控除制度は、離婚か死別したひとり親にのみ適用され、いわゆる未婚のシングルマザーには適用されていませんでした。母子世帯の平均年収(2017年度厚労省調査)は243万円です。それら母子世帯の中でも「未婚」の場合は若い女性が多いこともあって、「離婚」や「死別」した場合と比べて収入が低い傾向が、支援するNPO団体などから指摘されてきました。また、厚労省の調査では、「未婚」は「離婚」と比べて養育費について取り決めている割合が少ないことも判明しています。

それにもかかわらず、未婚のひとり親は控除が受けられず、税負担が重いままの不公平な状態が続いてきたのです。同じひとり親として、経済的に苦労して子どもを育てているというのに、婚歴の有無だけで税負担に差があるというのは、実に理不尽なことだと思いませんか?過去にも改正を求める意見が党内外にありましたが、伝統的な家族観を重視する自民党の男性議員を中心に「事実婚を奨励しかねない」という反対論が根強く、改正が実現しませんでした。

しかし、今回は、稲田朋美先生をはじめ、私たち女性議員有志で3月に結成した「女性議員飛躍の会」を中心に、早くから各方面に要望書をもって働きかけを行い、党内の賛同議員数は実に140名を超えていたのです。必至で子育てをしているシングルマザーを助けたい、という思いは、望んだのに子供に恵まれなかった私には、より強く響きました。

11月中旬、女性議員の会一同で、菅官房長官、甘利税制調査会長に要望書を手渡し、さらに与党内でも公明党が賛同してくださったことも追い風になりました。

それでも、伝統的な婚姻関係や家族観を重視される男性議員の皆さんの懸念が示される場面は多くありましたが、当事者の未婚のひとり親の皆さんだけでなく、数多くの方々から励ましの声に支えられ、最後は「山が動いた」のです。応援してくださった皆さまに心より感謝申し上げるとともに、女性議員の力が合わされば、政策を変えていける、という自信にもつながりました。

それでもフランスの背中は遠い

一方で、寡婦控除制度の改正は、「社会で子どもを育てる」という目指すべき方向性においては“通過点”に過ぎません。

私が本音を申し上げずとも、ほかの先進国の取り組みと比較して、我が国はまだまだ足りない実状を皆さんご承知のことと思います。実際、子育て支援などの家族関係社会支出を対GDP比でみると、日本はフランスの4割、イギリスの3割ほどにしか過ぎません=下記グラフ参照=。

内閣府ホームページより

フランスが1.6に下がった出生率を、「国難として何とか2以上に引き上げよう」と取り組んだ政策はよく引き合いに出されます。

70年代に合計特殊出生率が2.0を割ってから、家族手当などの経済的支援に加え、90年代以降は保育所整備などを充実。企業による保育参入の促進や、一般の母親への託児資格の付与と社会的地位の向上、学童保育の充実、妊娠・産休・育休、あるいは子どもが増えた時の多種多彩な家族手当など、あらゆる支援策を展開してきました。

今では児童手当も含めて30種類の手当(!)があるそうで、生活が苦しい世帯だけではなく、一般世帯全体まで対象にしています(参照:内閣府ホームページ)。こうした「努力」が、2000年代半ばでの出生率2.0の回復を実現したのです。

ちなみにフランスの出生率回復というと、「移民が多いから」とか「日本と違い婚外子差別がないから」と、日本との違いを指摘する向きがあります。たしかに外国籍の女性の出生率は3.0を超えているそうですが、これも出産適齢期の出生数の7%を占めるくらい。またフランス国籍を持つ移民女性の出生率は2.1なので、国全体の動向と大差はありません。

婚外子については、1999年に事実婚制度が導入されてはいますが、出生率が上がり始めたのはその前からのことで、専門家の話では、出生率回復と事実婚制度との因果関係は、未だ不明とのことです。

公費以外に企業負担が財源に

もうひとつ政治的な誤解もあって、「フランスの手厚い支援策は社会党政権時代のものだ」という指摘もありますが、過去30年あまり、政権が変わっても一貫して子育て支援のための政策は充実されてきました。

また、「そんな財源は日本にない」との反論もよく聞きますが、フランスでは公費以外に民間資金が活用されてきたことをご存じでしょうか。先述の充実した家族手当は、家族給付全国公庫(Caisse Nationale d’Allocation Familiale = CNAF)が、運営しています。母体となる「家族手当保証金庫」は1918年に企業が出資する形で創設。1932年には雇用主の金庫への加入が義務化され、戦後1946年にCNAFが設立されました。

こうした歴史を踏まえても、政権云々という話ではなく、まさに国家的取り組みとして一貫して行われてきたことがわかります。そしてここが肝心なのですが、CNAFでは財源の45%を、企業が社会保険の一部として負担していることです(2012年)。

写真AC(編集部)

大企業の内部留保を人材投資に

ところで、日本の足元を振り返ると、日本企業の内部留保は7年連続で過去最高を更新する463兆円(現預金240兆円)となり、これをどう動かして成長につなげるかということが課題になっています。

日本にも既に、「子ども・子育て支援勘定」というものが年金特別会計の中にあり(事業主からの拠出金及び国庫負担金を主な財源として児童手当の給付等を行うもので、令和元年度は3兆円規模)、私は従前よりこの勘定を大きくして、子育て支援を充実すべき、ということを主張してきました。

企業資金を子育て施策に拠出する案といえば、小泉進次郎さんたち若手議員が以前、こども保険を提言したことがありましたが、企業側の反発で立ち消えてしまいました。

しかし、今年の出生数が90万人を割る(!)など、そもそも少子化はどこかの国のミサイル以上に顕在化している「国難」です。企業にとっても、すでに人手不足で働き手を確保できない弊害が出るなど、このまま行くと、遠くない将来、自社の商品を買うお客さんも、自社で働いてくれる従業員もいなくなってしまうのではないでしょうか。

社会で子どもを育てることは決してコストではなく、「人材投資」です。これほど重要な「社会的投資」がほかにあるでしょうか!

 


太田 房江(おおた ふさえ)参議院議員(自由民主党、大阪府選挙区)
1975年通産省(現・経済産業省)入省。2000年大阪府知事選で初当選し、日本初の女性知事に。2008年に知事退任後、民間企業勤務を経て、2013年参院選で初当選(現在2期目)。厚生労働政務官などを歴任。公式サイトツイッター「@fusaeoota」LINE@