先週末、コクヨ、ぺんてるとも株式買収紛争に関するリリースが出ておりまして、過半数の株式取得を目指していたコクヨさんが46%ほど取得、つまり保有予定株式が過半数に到達しなかった、ということが報じられています(たとえば時事通信ニュースはこちら)。
逆にぺんてるさんはプラスさん側の友好的買収の結果と併せて、過半数を超える株式を確保したそうです。ということで(現時点では)コクヨ側の敵対的買収は不発に終わった、と評価されているようです。
本件の報道の途中から「くだらん疑問かもしらんけど、ようわからんなぁ」と思うことがありまして、本件に関するコメントは(一応の結論が出るまでは)書かないでおこうと思っていました。まぁ、とりあえずの決着は先週末に出たように思いますので、このコクヨさんとぺんてる(プラス)さんの買収合戦に関する素朴な疑問を少しばかり書かせていただきます(いえ、本当に思いつきの素朴な疑問です)。
今回、コクヨさんはぺんてるの株主の方々から(たとえぺんてるさんの承認がなくても)確定的に株式を取得し、取得と同時に委任状をもらったと思います(株式譲渡契約書の内容が明らかではないのでメディアの報じるところからの推測です)。この委任状は、臨時株主総会において現ぺんてる役員を解任するために使い、新たにコクヨ側が希望する取締役候補者を選任して、株式譲渡承認に関する取締役会決議を得ることが目的です。
しかし、委任状を取得する目的が「承認決議を得るために取締役を解任する」というのは、権利濫用にはならないのでしょうかね。たとえば取締役の解任、新たな取締役の選任の決議が「特別利害関係人による議決権行使によって不当な決議がなされた」として、株主総会の決議が取り消される、といったこと(会社法831条1項3号)は考えられないでしょうか。
経営していくのに不都合な人が入ってこないようにするために株式に譲渡制限をかける制度があり、ただし一方で株式の自由譲渡性を保障するために譲渡承認に代わる換価手続きが定められているのですから、上記のやり方は会社法が株式の譲渡制限を認めた趣旨を没却するおそれがあるように思うのですが。
ちなみに江頭先生の「株式会社法」を読んでも、譲渡先が第三者でも株主でも、この「経営支配への介入を防止する」という意味は同じとされています(江頭「株式会社法」第7版 234頁注3参照)。
ぺんてる経営陣の譲渡承認がなくても、コクヨさんとぺんてる株主との間で株式売買契約が有効に締結できるのは、閉鎖会社の譲渡承認のない株式譲渡の有効性が争われた昭和48年6月15日の最高裁判決(民集27巻6号700頁)が「相対効説」に立ち、平成2年の商法改正も「株式取得者からの譲渡承認請求」を認めたからだと思います。
相対効説は「会社に対して効力が及ばないとすれば目的を達成でき、当事者間の契約の効力まで否定する必要はないから」というものです。しかし、コクヨさんのやり方を認めてしまえば、この相対効説の根拠も否定されることになってしまうのではないでしょうか。
もちろん名義書換え未了の時点で譲受人が譲渡人に議決権行使を指示すること、会社債権者が株主の議決権行使に指示を与えることなどもありますから、委任状自体の効力まで否定されることはないと思うのですが、委任状取得の目的が閉鎖会社の支配権取得にある、ということであればちょっと違和感を覚えるところです。
もし、今後コクヨさんのような手法で「閉鎖会社でも敵対的買収が行われる可能性がある」ということになりますと、以前のエントリーでも書きましたとおり、株式が拡散するおそれのある閉鎖会社の場合、早めに定款を変更して「議決権に関する属人的定め」(会社法209条2項、同105条1項5号)を設けることも検討すべきではないかと思います。
株主平等原則との関係で、そのような定めを設ける目的が正当かどうか争われた重要判例もありますが、ともかく相続による売渡請求権行使と並んで、会社側の知恵として検討するだけの価値はありそうです。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年12月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。