世論調査で下落が続くこのところの安倍内閣の支持率が、最新版では40%代前半にまで落ち込み、東京新聞の調査ではついに不支持率が支持率を上回った。
一連の「桜を見る会」絡みの出来事がその理由との報道が目立つ。が、国民はそれほど馬鹿でない。筆者は、所得が伸びないところへ消費税の値上げを強行したことで、決して楽でない庶民の生活をさらに悪化させた(または、させそうな)経済と社会保障の政策がその主な要因に違いないと考える。
16日に報じられた12月の産経・FNN合同世論調査がそれを物語る。()は11月分。単位:%
【問】安倍晋三内閣を支持するか
支持する43.2(45.1) 支持しない40.3(37.7) 他16.5(17.2)
【問】安倍政権について次に挙げるものを評価するか
《首相の指導力》
評価する51.6(52.5) 評価しない37.2(35.8) 他11.3(11.7)《景気・経済対策》
評価する35.9(33.0) 評価しない49.6(50.8) 他14.5(16.2)《社会保障政策》
評価する26.6(26.5) 評価しない58.1(53.1) 他15.3(20.4)《外交・安全保障政策》
評価する47.6(50.3) 評価しない34.8(33.7) 他17.7(15.9)
経済や社会保障の政策では「支持しない」が「支持する」を何と15〜30%も上回る状況が続いている。筆者は安保外交でも、習主席の国賓招待、弱腰な北方領土交渉、中国の人権蹂躙への発信不足などは評価しないし、国内問題で9条改正や皇統問題での慎重すぎる姿勢にも不満がある。
国民一人当たりの所得でも、ここ10年ほど先進諸国が押し並べて5割増である中、日本のそれはむしろ減っていると報じられる。マイナス金利で預貯金の利子など全くあてに出来ないところへ、手数料まで金融機関に取られるらしいとなれば、いい加減にしろよ、思わない方がどうかしていよう。
少し前、老後に2千万円は必要、との試算が役所から漏れ出て問題になった。いくら国民がみな知っていることだとしても、そこまで貯められないうちに年を取って働けなくなった者はどうしたら良いというのか。厚生年金加入者ならギリやれるかも知れぬ。が、国民年金だけではまず路頭に迷う。
昭和の頃は銀行や郵便局に10年ほど定期で預けていればほぼ2倍になった。退職金を5百万円預ければ1千万円だ。
が、今はいくらかでも増えると思っている者などいない。これを国民のせいとでもいうのか? そうではなくて政治の無為無策、経済政策の失敗のせいに他なるまい。
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16日には何とも気の毒な身につまされるニュースがあった。88歳の母親と70歳の寝た切りの娘の老老無理心中だ。福岡市の公園と近くのサービス付き高齢者向け住宅で、それぞれ血を流して死んでいた。母親は「経済的に困って介護を続けられない」と周囲に相談していたという。
88歳母親と70歳娘が死亡 母親が無理心中図ったか 福岡 西区(NHKニュース)
警察の調べでは、母親が倒れていた公園には「申し訳ありません。自殺します」という趣旨の遺書と包丁があったという。ところがその晩のNHKニュースは、この件に続けて厚労省が提示した介護保険制度の見直し案を報じた。まるで死者に鞭打つように。これでは内閣支持率は上がるまい。
見直し案で「利用者への影響が大きい」とされた2割負担の対象拡大やケアプランの有料化が見送られたのは良い。また自己負担の上限額を年収に応じた引き上げとし、世帯で年収770万円以上は月9万3千円、年収1,160万円以上は月14万円まで引き上げる案も、応能負担だから首肯する。
が、低所得者が特別養護老人ホームなどの介護施設を利用する場合の居住費や食費を補助する制度では、一部の者の負担を増やす方針が示された。年金などの収入が年120万円超155万円以下の者に現在の負担額に月2万2千円上乗せする案だが、何と愚かなと筆者は思う。
身寄りがない高齢者などの場合、年間約26万円の増加分をどう支弁するというか。勢い生活保護に向かわざるを得まい。代わりに年金支払がなくなるから国の負担は「行って来い」だろう。が、年金額が少し足りないばかりに生活保護の世話になるとは、永年真面目に働いた報いとしては余りに虚しい。
また、今回は導入を見送る方針が示された項目には以下のようなものがあり、この先ほぼ間違いなく導入される日が来よう。が、負担できない者は生活保護か死ぬかを選ぶことになる。
- 原則1割である介護サービスの自己負担が収入に応じて2割または3割負担となる対象者の拡大。
- 在宅で介護を受ける際、ケアマネージャーに利用計画を作ってもらう「ケアプランの作成」の有料化。
- 要介護1と2の者が受ける買物や調理、洗濯などの援助サービスの国から市町村への移行。
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どうするかと問われても浅学の筆者に名案はない。無責任な夢想が許されるなら、団塊世代が一掃されるまでの15年間、毎年10兆円ほど国債を発行して社会保障に使うのはどうだろう。原発をフル稼働して天然ガス輸入を減らし、太陽光発電の買取をやめれば7〜8兆円は出て来る(電気料金引下分が消費や貯蓄に回る)。
また、内部留保を溜め込まず、社会に役立つ国内事業に投資して雇用を増やす企業、従業員に還元して労働分配率を高める企業、下請けが従業員に十分に利益分配できる条件で仕事を出す企業、オーナー経営者が何兆円もの個人蓄財をしない企業、などが社会的に評価される風潮を醸成することも大事だ。無論、消費税は全廃だし、利回りを上げるための政策も要る。
何をいいたいかといえば、これらはどれも素人の戯言だけれど、要するにお金が国民に使われて社会を循環する仕組みが大事ということ。そうなれば需要が喚起されて企業業績も上向き、それがまた投資や従業員に回されて景気を押し上げる循環になるのではなかろうか。
ところが目下政府がやろうとしていることは、お金を使わずに将来のために貯め込まないことには老後が普通に過ごせないと国民が考えて、財布の紐を締めざるを得なくなる政策ばかりではないか。しばらくは団塊世代に社会保障費が嵩むとしても、彼らが永遠に存在する訳ではなかろうに。
政治の貧困は、庶民の暮らしぶりや貧乏の苦労を知らない二世や官僚上がりの政治家が与野党ともに増えたせいかも知れないし、連合が無能な左派野党を支持していることもあろう。そもそも民間労組と官公労の一体化には無理があるし、総理が経団連に賃上げを要請するなど、連合は恥と思わないのか。
要はダメな野党のお陰で政権維持ができているのであって、国民は政権を全面的に支持している訳でないということ。安倍政権には、この世論調査の「景気・経済対策」と「社会保障政策」の不支持率を虚心坦懐に直視して、国民がその将来に希望を持てるような政策を大胆に進めてもらいたい。
高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。