積水ハウス地面師詐欺事件 〜 社内調査報告書は「公開される」と心得よ

昨日(12月17日)、ジェンダーギャップ(男女格差)の大きさを国別に順位付けした世界経済フォーラム(WEF)の2019年の報告書が発表され、日本は153カ国中121位で、過去最低だったそうです。ESG経営と言いつつ、胸にSDGsのバッヂをつけている役員(執行役員含む)さんを忘年会でたくさん見かけますが、この結果ヤバくないですか?SDGs達成度ランキング上位国だからこそ、意見をお持ちの方も多いと思うのですが。

「いや~、まだ女性は部長も育ってないからなぁ」と言い訳するくらいならクオータ制を導入して「執行役員を2名以上」御社の女性職員から登用してみてはいかがでしょうか。女性役員を育てる土壌があれば「地位が人を創る」ことになるのではないかと。そのうちAIで「なんちゃってSDGs」ランキングとか公表される時代が到来しそうな気がします。(以下本題です)

積水ハウスロゴより:編集部

地面師詐欺事件により、代表取締役の方々を被告とする株主代表訴訟に発展している積水ハウス社ですが、同社がどうしても公開したくなかった社内調査報告書を(閲覧制限がなくなりましたので)閲覧させていただきました。私はもっと「社内力学に関わるような生臭い記述」とか「役員の法的責任をズバリ指摘する記述」があるからこそ(会社は)公開を拒絶していたのかと思っていましたが、とくにそのような記述は見当たりません。

ネットニュース等によりますと、この社内調査報告書には「更なる(社内調査報告書の)原案文書」があり、そちらこそかなり衝撃的な内容だと報じられています。今後、世間の注目はそちらに集まるかもしれませんが、当ブログとしては株主代表訴訟が係属している以上、あまり「善管注意義務」の中身に踏み込むことは控えておきたいと思います。

ただ、社内調査報告書を読む限り、私個人としては「不祥事が発生した場合に、どこの会社でも作成されるような、ごく普通の社内調査報告書」でも開示されてしまう、ということのインパクトは大きいと感じます。社外役員のみで調査委員会が構成されていて、内容も個人のプライバシー権侵害に該当するような記述がみられず、おおよそ公開されることを念頭に事実が記載されていることから、「単なる内部文書」とはいえない、と裁判所に判断されたものと思われます。

2016年、東証の「企業不祥事対応のプリンシプル」が公表され、さらにどこの上場会社でも社外役員が急増している時代において、不祥事が発生した際に「第三者委員会」ではなく「社内調査委員会」を(とりあえず)設置する企業が増えています。しかし公開を原則としない社内調査報告書でも、公開される、つまり裁判所の文書提出命令の対象になる(閲覧制限もできない)ことは他社も肝に銘じておくべきでしょう。

これを回避するために、社外役員に調査を委ねることをせずに調査を進めるとなりますと、今度は「隠ぺい目的の社内調査」などと批判をされ、レピュテーションリスクが高まるわけで、企業としても悩ましいですね。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年12月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。