習近平氏への包囲網

年末が迫ってくると懸案の案件の決着がつくのは毎年の行事だといってよいでしょう。今年は英国の総選挙でEU離脱方向が明白になったこと、トランプ大統領の下院での弾劾(これは現在進行中)、そして米中通商交渉で「第一弾」の交渉がまとまったという大きなひと山がありました。

ですが、どれも山を越えても次の山があるわけで結局はキリスト教を背景にした国家がクリスマス休暇入りするための最後の力を振り絞ることと妥協の産物的なところもあります。(アメリカが債務上限問題で揉めた年も実質的にはお手盛りだったと記憶しています。)

さて、米中通商交渉ほどよくわからないひと山はありません。トロントの証券会社の担当から「お前はこの合意をどう思うのか?」と聞かれたので「我々が聞いているのは基本的にはアメリカが発表した内容だけ。中国のスタンスがまるで見えないので判断できない」と答えました。

新華社サイトより:編集部

事実上の合意がなされた時、中国側は政府の公式見解を発表しただけで具体的内容には一切触れず(というより削除され)その内容について公表しているとは言い難い状況であります。そのうえ、北京では今回の合意について賛否両論入り混じる中、明白に習近平氏の譲歩という評価がクローズアップされているようであります。

習近平氏は国家主席として最強のポジションを確保し、最強の国家を作り上げると高々に宣言していましたが、その宣言直後からこの通商戦争に巻き込まれ、香港のデモを経験し、1月の台湾総選挙では中国に距離を置く蔡英文氏がリードしています。

中国はアメリカとの通商戦争で不平等条約を結ばされたとも言われており、その最大の誤りは持久戦に耐えられなかったからではないか、とみられています。習氏は当初、2020年11月のアメリカ大統領選挙まで引っ張ればトランプ大統領を難しい立場に追い込めると考えていました。ところが民主党から強力な対抗馬が出ない上に中国経済そのものが思った以上に揺らいでおり、持久戦どころではなくなったと分析されています。

次に合意した内容の実効性であります。アメリカ農産品を500億ドル(5兆5000万円)分も買うとトランプ氏は胸を張っていますが、実際には消費がそこまで追い付かないとみる中国側とそんなに輸出する余剰能力がないとするアメリカの農家の声があります。事実、中国は500億ドルなんて全く発表しておらず、中国の輸入量は増えるがどれだけ増えるかは今後詰める、としています。

今回明白に合意されたのは9月に引き上げた関税の半分の7.5%に引き下げることと12月15日に第4弾関税を課すことを取りやめたことだけであります。株式市場ではやされたのは9月の関税の半分への引き下げが事前予想に入っていなかったため、ポジティブサプライズとなったのですが、私は株式市場は踊り過ぎでアメリカの一方的な話を信じすぎているとコメントしたと思います。

沈黙を続ける中国が厳しい立場に追いやられていることは確かであります。習近平国家主席の胸の内は「やってられん」ではないかと思います。周りは国内の政敵を含め、いやなことばかり。そのために味方づくりに躍起になり、日本に国賓で行きたい、韓国を取り込みたい、台湾はどうにか抑える、香港については林鄭月娥行政長官を抱き込み、どうにかこれ以上戦火が広がらないように必死の防戦をしているのが伺えます。

習近平氏は毛沢東氏のように最後、苦しみながら失脚するのでしょうか?

習近平氏の政治を見ていると自己権力の誇示がまずありきなのです。これは中国社会の独自性とも言え、過去のトップも同様でしたし、中国の歴史を遡っても英雄とか支配者というスタンスが非常に強く表れる国家であります。かつてはそれで「お山の大将」になれたのですが、現代社会が複雑怪奇な絡まり方をし、情報化社会となってしまい、権力をベースにした力の誇示は過去のスタイルとなりつつあります。

では中国で「構造改革」がなされるか、といえばそれもなく、同じことを繰り返すことになるのでしょうが、外圧はかつて以上に厳しいものになります。

習近平氏が自分の絶対的地位を固められなかったのは国内経済運営の失敗がすべてだと思います。リーマンショック以降多くの国家は立ち直り、今はそのレベルを凌駕しているというのに習近平氏がトップに立った2013年以降、基調は下がり気味のままであります。もちろん、そのベースを作ったのは前任の胡錦濤氏がリーマンショックに対応して国内で大盤振る舞いのバラマキ景気対策を行ったことが主因ではありますが、世界経済が立ち直る中、それに歯止めをかけられなかった習氏の責任は大きいでしょう。

習氏が失脚するシナリオにはまだ、至らないかもしれませんが確実に包囲網は狭まっているというのが私の感じるところであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年12月19日の記事より転載させていただきました。