模索する地域包括ケアシステムの構築~自助・互助を最大限に引き出すために~

すべての自治体は地域包括ケアシステムのさらなる構築に向けて議論を重ねております。

まずはご存じとは思いますが地域包括ケアシステムの概要を示します。

日本は、諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行しています。

65歳以上の人口は、現在3,000万人を超えており(国民の約4人に1人)、2042年の約3,900万人でピークを迎え、その後も、75歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されています。

このような状況の中、団塊の世代(約800万人)が75歳以上となる2025年(平成37年)以降は、国民の医療や介護の需要が、さらに増加することが見込まれています。

このため、厚生労働省においては、2025年(平成37年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。

図1: 地域包括ケアとは

図2: 地域包括ケアシステムの5つの構成要素と「自助・互助・共助・公助」

  • 「自助」は「自分のことを自分でする」
  • 「互助」は「相互に支え合う意味だが、費用負担が制度的に裏付けられていない自発的なもの」
  • 「公助」は「税による公の負担」
  • 「共助」は「介護保険などリスクを共有する仲間(被保険者)の負担」

参考:厚生労働省HP地域包括ケアシステム

地域包括ケアシステムは各自治体の裁量で推進するものですが、元をたどれば、増加し続ける社会保障費、特に医療・介護費においては各自治体で知恵を絞って抑制をして下さいといわんばかりの、国からの丸投げの制度であります。

将来的に財源負担を抑制できるのか、各自治体は試されているわけです。

この財源負担を「自助」「互助」「共助」「公助」と支援のあり方をスマートな表現をするわけでありますが、予算をみれば、費用が生じない自助・互助に頼っていかざるを得ない状況であるのは明白です。

地域包括ケアシステムの構築を検討する上で、自治体が管理しやすい体制ではなく、自助・互助の力を最大限に引き出せる体制を作っていくことが肝要です。

増加し続ける社会保障費の増大を防ぐには、自助・互助を促し、予算を抑制した持続可能な地域包括ケアシステムの設計思想が必要です。

地域包括ケアシステムは各地域の状況を勘案して、国の一律ではなく、各自治体事情によって構築できるわけですが、私が住む中野区全体を見渡すと、中野区一律ではなく、中野区をさらに細分化する必要があると思っております。

例えば中野区でいうとJR線で区切った北と南では文化が違うとよくいわれます。

互助を促す上で文化が異なる地域を一括したシステム構築は困難です。

最適なエリア分割は何なのか整理する必要があります。

エリア分割のサイズ感はどのくらいがいいのか、先日、台風15号の風による被害を受けた館山市に災害ボランティアに伺った際にヒントを得ました。

本件については先日アゴラに「台風19号襲来の前に ~15号に伴う館山市災害ボランティア所感」にエントリーしておりますので紹介させていただきます。

館山市は、災害ゴミが散乱し、電気が通じておらず信号機は機能不全し、ほぼ無政府状態になっており、中野区で例えると地区町会連合会(複数の町会を束ねる団体、区内で15団体。以後、「地区町連」)を中心として、秩序を保っていました。

地区町連が中心となり、公民館を拠点として、地域の方々が集い話し合い、公共スペース、私有地にゴミ集積所を定め、災害ゴミの運搬、ブルーシートによる屋根の補強など、みんなで力を合わせ活動しておりました。

また地区外からのボランティアを受け入れるセンターの設置を自主的に行っておりました。

有事の際に行政職員の力「公助」「共助」は当てにすることはできず、「自助」「互助」が必要となります。

災害現場に行って、緊急時は助け合い、やはりご近所さんの信頼関係が重要と改めて感じました。

地域包括ケアシステムの単位エリアは日ごろから顔を付き合わせている町会・自治会とそれを束ねる地区町連の規模が妥当であると痛感しました。

町会・自治会の加入率が低下しているとはいえ、地域をよく知る人たちは他にはいません。

「互助」のベースを地区町連とするならば、「公助」「共助」もその規模とするのが妥当かというとやはり自治体の予算をできるだけ抑制する観点からまた違うエリア分割が必要であります。

地区町連ごと、地域包括ケアシステムに必要な専門員を配置できれば望ましいですが、自治体の予算との兼ね合いとなってきます。

現在、中野区においては4つの地域包括ケアのエリアを設定しておりますので、公助の規模感はそのままとし、共助はその役割から区全体で構築されることが望ましいと考えらえます。

「自助」「互助」「共助」「公助」のバランスは予算、人員、対応を勘案する必要があります。

図3は上記の考えを概念的にまとめたものです。

図3: 筆者が考える「自助」「互助」「公助」「共助」の関係

「共助」は国の介護保険等、「公助」は自治体とその付属機関、「互助」は町会・自治会・民生委員・社会福祉協議会などの地域、「自助」は本人とその家族となります。

予算や人員体制を考えれば、上流からの支援を待っていてもなかなか降りてきません。

図2に示されている厚生労働省の示す「自助・互助・共助・公助」が相互にオーバーラップしている概念も必要ですが、現実的には図3のような体制になっていると理解した上で地域包括ケアシステムを構築することが望ましいと考えます。

厚生労働省が推奨する地域包括ケアシステムは、自治体全体で実施する地域ケア推進会議を第1階層とし、○○地域事務所・○○センター圏域等でエリア分割された地域ケア個別会議を第2層としています。

上述しましたが、地域事情に合わせられるように第2層である地域ケア個別会議のエリア分割をさらに分割し、第3層を位置付けることを提案させていただきます。

この体制の方が互助の力を引き出すことに長けており、結果的に公的な予算の支出の抑制に資するものと考えます。

図4: 筆者が提案する地域包括ケアシステムの体制

最後に過去のエントリー「健康寿命を伸ばせば、介護費削減に「直結」するのか?」で説明しましたが、制度設計する上で、健康寿命の延伸は、当初の目的から逸脱しているということをご留意して、地域包括ケアステムを構築されることを切に願います。

加藤 拓磨   中野区議会議員
1979年東京都中野区生まれ。中央大学大学院理工学研究科 土木工学専攻、博士(工学)取得。国土交通省 国土技術政策総合研究所 河川研究部 研究官、一般財団法人国土技術研究センターで気候変動、ゲリラ豪雨、防災・減災の研究に従事。2015年中野区議選で初当選(現在2期目)。公式サイト