健康寿命を伸ばせば、介護費削減に「直結」するのか?

加藤 拓磨

(初めに:本文は健康寿命を延ばすことを否定するものではなく、不健康である期間の短縮を施策として講じるべきと訴えるものである。)

政府は日本再興戦略などを踏まえ、2025年に向け、「国民の健康寿命が延伸する社会」の構築(2013年8月30日)を目指して予防・健康管理などに関する具体的な取組を推進し、

①高齢者への介護予防等の推進
②現役世代からの健康づくり対策の推進
③医療資源の有効活用に向けた取組の推進

これらの取組を推進することにより、5兆円規模の医療費・介護費の効果額を目標とした(※1)

この政策によってか、近年、健康寿命を延ばすことは日本人の人生におけるテーマのひとつとなっている。

個人個人が健康寿命を延ばすことに異論はなく素晴らしいことだが、税金を投じた健康寿命延伸の施策をすべきではないと考える。

第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会(※2)によると以下の式がある。

日常生活に制限のない期間の平均[年]+日常生活に制限のある期間の平均[年]=平均寿命[年]

※以後、「日常生活に制限のない期間の平均」を平均健康寿命、「日常生活に制限のある期間の平均」を平均不健康期間とする。

改めて式を書き直すと、こうなる。

平均健康寿命[年]+平均不健康期間[年]=平均寿命[年]

そもそも国が健康寿命の延伸を推進する目的は、不健康期間を縮減させて、介護期間・費用を圧縮するためだった。

図1は上記資料の抜粋であるが、不健康期間が縮まっているように見える。

図1「日常生活に制限のない期間の平均」と「日常生活に制限のある期間の平均」の推移

不健康期間(図では「日常生活に制限のある期間の平均」がゼロ年というのは、ご高齢者自身らが冗談でいう“ピンピンコロリ”という理想の状態、苦しむこともなく寿命を迎えることである。

ピンピンコロリにできるだけ近い状況にするために、健康寿命を延ばそうという大号令がかかった。図1を見るとその期間が短縮され、この方針が素晴らしく見えるが、さらに過去のデータに遡ると全く異なる結論が見いだされる。

下図は平均健康寿命、平均寿命、不健康期間の経時変化である。

図は上記専門委員会資料と、同委員会の第2回資料(※3)を基に著者作成した。

平均寿命について、わずかではあるが、数字が異なっているため、第11回資料の数字を採用した。

図2  平均寿命・健康寿命・不健康期間の時系列

男女ともに平均寿命、健康寿命が右肩上がりである。しかしその差分である不健康期間は、横ばいであり、縮んでいるとはいいがたい。つまり、健康寿命の延伸が不健康寿命の短縮につながるわけではないことを示唆している。そして不健康期間が横ばいであるため、介護費用の圧縮に直結はしない

ともなれば、健康寿命を延ばすことは介護費用の圧縮ができない可能性がある上に、年金受給期間を延長し、国家財政をさらにひっ迫させる可能性がある。

つまり不健康期間の短縮ができないのであれば、健康寿命延伸施策に力をいれるのは間違った方向性である。

目指すべきは不健康期間の短縮であり、国を挙げて、それに向けた研究・検討が必要であると考える。

補足

厚生労働省の厚生科学審議会(※4)において、健康寿命の延伸について、様々なデータの分析が試みられており、図1はその一つである。

審議会資料では、この図を以て

同期間における平均寿命は、男性で 1.43 年(79.55 年→80.98 年)、女性で0.84 年(86.30 年→87.14 年)増加したことから、健康寿命の増加分は平均寿命のそれを上回っており、現時点で目標は達成されていると言える。

としているが、第2回同会議において、図3を作図しており、長期データを持っているにもかかわらず、図1のように3つのプロットのみで、健康寿命延伸施策が成功しているように見せているのは「偽造」といっても過言ではないだろう。

参考資料
※1 厚生労働省:「国民の健康寿命が延伸する社会」に向けた予防・健康管理に関する取組の推進
※2 厚生労働省:第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会 資料1-2(平成30年3月9日)
※3 厚生労働省:第2回健康日本21(第二次)推進専門委員会 資料1健康日本21(第二次)各目標項目の進捗状況について
※4 厚生労働省:厚生科学審議会 (健康日本21(第二次)推進専門委員会)

加藤 拓磨   中野区議会議員 公式サイト