ウィーン「クリスマス市場」テロ計画が発覚

欧州各地でクリスマス市場が開かれている。音楽の都ウィーンでも市庁舎前広場やシュテファン大聖堂周辺などで市場が開かれ、市民や観光客で賑わっている。市場からはクーヘン(焼き菓子)やプンシュ(ワインやラム酒に砂糖やシナモンを混ぜて暖かくした飲み物)の香りが漂ってくる。クリスマスの雰囲気はいやが上にも盛り上がる。

▲イスラム過激派のテロ対象だったシュテファン大聖堂横のクリスマス市場(2019年11月27日、撮影)

▲イスラム過激派のテロ対象だったシュテファン大聖堂横のクリスマス市場(2019年11月27日、撮影)

そのクリスマス市場を狙ったイスラム過激派テロ計画が今月に入り発覚し、ウィーン市民を驚かせている。市警察当局によると、主犯は24歳のチェチェン出身(北カフカース地方)の男性で他の2人(25歳と31歳のチェチェン人男性)と組んでウィーン市、ザルツブルク市のクリスマス市場や大晦日・新年イベントを襲撃する計画を立てていたという。

24歳の男性( Sergo P)は治安関係者にはよく知られている人物で、前科2犯のイスラム過激派だ。Pは2015年10月、イスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)に参戦するためシリアに行こうとしたが、トルコ当局に拘束され、オーストリアに強制送還され、2年の有罪判決を受けた人物だ。彼は17年秋にも偽造旅券でシリアに行こうとしたが、オーストリア警察に事前にキャッチされ拘束され、同じように2年の有罪判決を受け、刑務所に拘束中だ。

Pを知る関係者は、「彼は根っからのイスラム過激派だ。刑務所でもイスラム教のコーランに基づいて動き、他の囚人にもコーランを教えるなどオルグ活動をしていた」と証言している。Pは他の2人のチェチェン人に刑務所から連絡を取っていたことが分かり、携帯電話の所持が禁止されている刑務所でどのようにして携帯で連絡できたのかなど、Pと共犯2人の周辺捜査が進められている。

ウィーン市警察当局は、「クリスマス市場の警備には問題がない。2016年12月のベルリンのクリスマス市場襲撃テロ事件後、クルスマス市場の警備を強化してきた」と説明、市民に平静を呼びかけている。

ドイツの首都ベルリンで2016年12月19日、大型トラックが市中央部のクリスマス市場に突入し、12人が死亡、48人が重軽傷を負った「トラック乱入テロ事件」が起きた。犯人はチュニジア人で、同月23日、逃亡中、イタリアのミラノ近郊で警察官の職務質問を受けた際、銃撃戦となり、イタリア警察官に射殺されている。

ちなみに、ドイツ警察側は犯人を久しく「危険人物」としてマーク、彼がISと接触していた事実も掴んでいたが、ベルリンの「トラック乱入テロ事件」を防止できなかった。今回はクリスマス市場襲撃テロ計画を事前にキャッチし、防止できた。ベルリンの教訓が生かされたわけだ。

欧州のテロ専門家は、「クリスマ市場がテロのターゲットになる危険性がある」と警告してきた。フランスのニースのトラック突入テロ事件後は、イスラム過激派には「トラックをテロの武器に利用し、可能な限り多くの人間を殺害せよ」という檄が発せられたという情報が流れたこともあって、それ以後、公共建物やクリスマス市場に大型トラックの侵入を防止する「アンチ・テロ壁」の設置が進められてきた。

例えば、ウィーン市最大のクリスマス市場、市庁舎前広場の市場では路上から市場に大型トラックが侵入できないようにコンクリート製のポラードが設置されている(「大型トラックが無差別テロの武器」2016年12月21日参考)。

幸い、今回は事前に防止できたが、イスラム過激派の対策では多くの課題が明らかになった。その一つは、刑務所内でのイスラム過激派の言動の監視強化、非過激化プログラムの実施などだ。ちなみに、オーストリア全土で現在、約2000人のイスラム教信者が拘留中だ。彼らが刑期中に刑務所でイスラム過激派と接触し、オルグされる危険性は排除できないのが現状だ。

ISはシリア、イラクから撤退してきた一方、欧州居住のISシンパ、外国人戦闘員を通じてテロを計画しているといわれる。クリスマス市場や大晦日から新年にかけてのイベント会場は彼らの格好の襲撃対象だ。要注意だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年12月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。