東証一部企業において、28%の株式を保有する機関投資家が、当社社長さんを会社法854条に基づく取締役解任の訴えにて提訴したことが明らかになりましたね。いわゆる「有価証券報告書の虚偽記載」を根拠としているようですが、先日もガバナンスに関する記述が課徴金の対象となった事例などもあり、開示規制が厳格になればなるほど、こういった民々での紛争事案が、上場会社においても増えてくるかもしれません。
さて、毎年恒例となりましたが、会社法務A2Z(2020年1月号)「新春企画・企業法務2020年の展望」にて、危機管理・不祥事対策部門で論稿を書かせていただきました。今年のテーマは「攻めと守りの両面から考えるコンプライアンス経営-中堅中小企業を中心に」というものです。
編集者の方から「今年は中小企業向けにコンプライアンス経営に関する論稿をお願いします」とのご依頼を受けまして、たいへん悩みました。
「うーーん、中小企業からみたコンプライアンス経営か・・・。どれだけ経営者の人たちに関心をもってもらえるだろうか…」
ということで、例年の構成を180度変えまして、大企業を攻める中小企業の武器としての「コンプライアンス経営」に焦点を当てました。労働法、経済法、情報法いずれの分野でも「優越的な地位の濫用」が問題となるケースが増えており、そうであるならば、行政当局による規制権限の発動を待つよりも、事業者自身が法を活用して競争力を高めるべきではないか、と考えました。
こういった大企業の法令違反(もしくはグレーな行為)について、行政機関に情報提供できる道も確保されつつあります(先日お話した行政機関向け通報処理ガイドラインの浸透など)。最近、「攻めの法務」というフレーズもときどき聞こえてきますが、中小の事業者も(事業を伸ばすために)企業法務を武器にできる時代が来たのではないか…とひそかに予想しております。
正直申しまして、新たな視点での論稿なので、自身の狙いどおりの論稿に仕上がっているかどうかは不安であります。ただ、私がズッコケたとしても、専門領域において著名な先生方による論稿が続々登場しますので、そちらでカバーしていただけるはずです(笑 しかし存じ上げている先生が増えたなぁ…トシをとった証拠でしょうね)。
「近時の大企業における不祥事例から、2020年、他の企業が教訓とすべきこと」といった例年のテーマでの論稿は、1月に発売されます別の法律雑誌のほうで執筆しておりますので、そちらをお読みいただければ幸いでございます。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年12月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。