ネット証券が「手数料ゼロ地獄」から抜け出す方法

12月になって、大手ネット証券の手数料引き下げ競争が一気に激化しました。日本経済新聞によれば、信用取引、現物株、投資信託、日米ETFなど、主力商品のほとんどの手数料があっという間にゼロになってしまいました(図表も同紙から)。

投資信託の信託報酬が運用会社の競争激化によって引き下げ競争になったのと同じように、ネット証券も手数料引き下げによる消耗戦になっています。

大手ネット証券の手数料引き下げ競争を見ていると、牛丼や携帯電話の価格競争と良く似ていると思います。同じような商品を、同じような価格で販売しえいるため、プロダクトのコモディティ化が進み、どこで買ってもあまり違いが無い状態になっているのです。

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商品の差別化があまり無ければ、顧客は価格によって商品を決めていきます。そうなるとどこか1社が価格を下げると、他社がすぐに追随して、安売りの連鎖に陥ってしまうのです。

ネット証券が手数料引き下げによる収益悪化のドロ沼から抜け出す特効薬はありません。地道に他社との違いがあるサービスを打ち出す必要があると思います。

その1つは、投資コンテンツの充実です。私が在籍したマネックス証券では、マネックスメールというメールマガジンや全国で開催するお客様感謝デイといったサービスが好評でした。他社もマネをして同じようなイベントを仕掛けてきましたが、登壇者が違えば差別化は可能です。そのネット証券にしかないコンテンツを顧客に提供することで、非価格競争に持ち込むことが可能です。

ただし、コンテンツは陳腐化していきますから、常に魅力のあるものに入れ替えていく必要があります。

そして、もう1つは、証券商品とシナジーのある他のサービスとの連携です。例えば、証券投資をしながら、実物資産との組み合わせを考える投資家にとっては、証券商品以外の投資対象にアクセスできれば、魅力的です。現物不動産をネット証券が取り扱うのは非現実的だとしても、不動産小口化商品のような証券に近い特徴を持った商品なら、ハードルは決して高くありません。

ネット証券が生き残っていくためには、低コストの商圏ブローカーという既成概念を飛び越えるような新たな挑戦が必要です。1999年の株式売買手数料完全自由化の時のようなベンチャー気質溢れるチャレンジでこの難局を乗り切って欲しいと思います。

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※内藤忍、及び株式会社資産デザイン研究所、株式会社資産デザイン・ソリューションズは、国内外の不動産、実物資産のご紹介、資産配分などの投資アドバイスは行いますが、金融商品の個別銘柄の勧誘・推奨などの投資助言行為は一切行っておりません。また、投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2019年12月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。