オーストリア右派と「緑の党」連立は政治的実験?

オーストリアで中道右派「国民党」と「緑の党」の連立交渉が成功裏に終わり、7日にも大統領府でバン・デア・ベレン大統領のもとで宣誓式に臨み、同国初の「国民党・緑の党」連立政権をスタートさせる予定だ。

連立交渉が成功裏に終了したことを記者会見で公表するクルツ国民党党首(2020年1月1日、国民党公式サイトから)

オーストリアでは連邦レベルで国民党と「緑の党」の連立政権はこれまで実現していない。州レベルではフォアアールベルク州で国民党と「緑の党」の連立政権が発足し、既に2期目に入っている。

クルツ党首は1日、「国民党と『緑の党』は政策的には違いがあるが、連立交渉では全く異なる政党の2つの世界からベストを引き出すことに成功した。具体的には、税率を下げ、税体制を環境優遇政策に一致させ、国境の監視強化と環境保護を目指すものだ」と述べている。

「緑の党」は4日、党連邦会議(代表276人)を開催し、国民党との間で合意した連立協定に対する信任投票を実施し、過半数の賛成があれば、国民党との連立政権にゴー・サインが出る。国民党の場合、クルツ党首に一任され、連邦レベルで連立協定の是非を問う必要はない。

オーストリアでは2017年の総選挙の結果を受け、国民党と極右党「自由党」の2党から成る連立政権が同年12月に発足したが、自由党のシュトラーヒェ前党首がスペインの避暑地イビザ島で自称・ロシアの女性富豪と会見、党献金を要求、その引き換えに公共事業の受注を斡旋し、オーストリア最大日刊紙の買収などを持ち掛け、その会談内容が昨年5月、ドイツのメディアでリークされ、物議をもたらしたため、責任を取ってシュトラーヒェ党首は副首相と党首のポストを辞任した。

その直後、国民党と自由党の右派連立政権は3年以上の任期を残して解消され、昨年9月29日の早期総選挙の実施となった経緯がある。

国民議会(下院、定数183)選挙では、クルツ前首相が率いる国民党が得票率約37・5%を獲得し、ダントツの強さを示す一方、地球温暖化問題で環境保護問題がグローバルイシューとなり、追い風を受けた「緑の党」は得票率13・9%と大躍進し、議会カムバックを果たした。

クルツ国民党は得票率を大きく失った自由党との連立再現を断念する一方、第2党の社会民主党との大連立政権は「政策の相違が大きすぎる」として拒否。最後は第4党「緑の党」との連立を模索してきた。

国民党と「緑の党」の予備交渉は10月9日からスタート。本格的な連立交渉は11月11日から始まったが、産業界の支持を受ける国民党に対し、環境問題を最優先する「緑の党」とは違いが鮮明だった。同国では戦後4番目に長い連立交渉となった。

新政権では、国民党は財務相、外相、内相、経済相、国防相など主要閣僚ポストを独占。「緑の党」は副首相、環境インフラ相、司法相、社会相の4閣僚が割り当てられた。新政権では8人の女性閣僚が生まれ、女性の閣僚率は53・3%と男性を上回った。平均年齢は45歳。最年少閣僚はクルツ首相自身で33歳。最年長閣僚は再任されたハインツ・ファスマン教育相で64歳だ。なお、新政権で統合省が新設され、クルツ党首の信頼の厚いスザンネ・ラーブ女史が就任する。

新政権で最大の難問は移民・難民対策だ。強硬政策を実施してきた国民党に対し、「緑の党」は難民・移民の受け入れに積極的だ。例えば、300頁に及ぶ連立協定では、犯罪を犯していなくても、危険性のある難民を犯罪予防という観点で拘束できることを認めている(Sicherungshaft)。「緑の党」の党員の中から反発が予想される。また、14歳まで学校内でイスラム教徒のスカーフ着用を禁止することが明記されている。

連立協定では、国民党の意向を反映し、税改革では税率の低下、不法難民、過激なイスラム教徒への対策強化などを明記する一方、公務機密の廃止、飛行機の利用では、近中距離飛行の場合、一律12ユーロの環境税が加えられるなど「緑の党」カラーが反映している。

欧州メディアは、政策が全く異なるオーストリアの新連立政権の発足を、「政治的実験だ」、「欧州の新しい政治モデルか」といった見出しを付けて報じている。

参考までに、ドイツのメルケル首相の与党「キリスト教民主同盟」(CDU)は社会民主党(SPD)と大連立政権を組んでいるが、SPDが大連立から離脱した場合、「同盟90/緑の党」との連立を視野に入れてきた。それだけに、CDUは隣国オーストリアの姉妹政党「国民党」と「緑の党」との連立政権の動きに強い関心を示している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年1月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。