学力低下とは?PISAの結果になぜ右往左往するのか

新年明けましておめでとうございます。本年もアゴラをよろしくお願いいたします。2020年初投稿になります。

経済協力開発機構(OECD)が加盟79ヵ国、地域の15歳を対象に3年毎に実施している「学習到達度調査(PISA)」があります。

最新結果が、12月3日に発表されました。この結果に一部の専門家が大騒ぎをしていますが、筆者は少々違和感を覚えました。

PISAの結果から見えてくること

日本におけるデジタル機器の利用を見てみましょう。高校1年生の約8割が、授業でパソコンやタブレットなどのデジタル機器を「利用しない」と回答しています(OECD加盟国中最下位)。さらに、「コンピュータを使って宿題をする」割合は3.0%(OECD平均22.2%)と、日常的な利用状況も大きく下回っていることが明らかになりました。

2018年に実施された、OECDの「国際教員指導環境調査」によれば、「課題や学級活動でICT(情報通信技術)を活用させている」と答えた日本の中学教員の割合は17.9%でOECD平均(51.3%)を大きく下回っています。

文科省の「新学習指導要領のポイント」では、高等学校の情報科では共通必履修科目「情報Ⅰ」を新設し、全ての生徒がプログラミングのほかネットワーク(情報セキュリティを含む)やデータベースの基礎等について学習すると書かれています。しかし、専任教員が充足されていません。この問題はどのような影響を及ぼすでしょうか。

中学校や高校などで、教科の免許状を持っている教員を採用・配置できない場合に、他教科の教員が1年に限り、その教科を担任できる「免許外教科担任制度」というものがあります。教育新聞(2018年5月2日)によれば、2016年度の免許外教科担任の許可件数を教科別にみると次のとおりです。

高校では、情報(1248件)、公民(394件)、工業(336件)、地理歴史(242件)、福祉(191件)となり、情報の多さが際立っています。専任教員の配置は喫緊の課題といえます。この課題に異をつなえるつもりはありません。

PISAの結果は正しいのか

さらに、能力低下の根拠として指摘されている、PISAは募集の対象や受験方法が異なるため幾つかの問題点があります。国際調査を実施する際には、調査対象を可能な限り同じ条件で比較しなければいけませんが、参加国が同じ条件ではありません。

そのため「学力低下」の根拠としてPISAの順位が低下したことを根拠にあげることはナンセンスといえます。それでは日本の順位の推移を確認してみましょう。

2000年→2003年→2006年→2009年→2012年→2015年→2018年
読解力:8位→14位→15位→8位→4位→8位→15位
数 学:1位→6位→10位→9位→7位→5位→6位
科 学:2位→2位→6位→5位→4位→2位→5位

参加国数の推移は次のとおりです。
2000年→2003年→2006年→2009年→2012年→2015年→2018年
32カ国→41カ国→57カ国→65カ国→65カ国→72カ国→79カ国

最新データでは、読解力が、4位(2012年)→8位(2015年)→15位(2018年)と低下していることから一部の関係者が大騒ぎをしています。過去には、数学が、1位(2000年)→6位(2003年)→10位(2006年)と低下したことで同様の騒ぎがありました。

データとして見るべき価値が有ることは認めますが、この結果のみで学力低下と決めつけることはできるのでしょうか。

学力低下議論の行方は

文科省の研究機関である国立教育政策研究所は「学力は改善している。学力低下は認められない」とし、一方で、PISAの調査結果そのものに懐疑的な立場の専門家も大勢います。

筆者はPISAの結果について懐疑的な立場をとっています。多くの方が感じている学力が全体的に低下しているように感じること。これに異をとなえるつもりはありません。ですが、学力低下の議論についても検証が不充分だと考えています。つまり、学力は「低下しているように見えるだけ」ではありませんか。

尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
※15冊目の著書『すぐやるスイッチ』(総合法令出版)を出版しました。