保釈を巡る「性善説」からの転換。司法関係者の常識が変わるのか?

保釈金の金額をいくらにするか、というのは刑事弁護人にとっては腕の見せ所の一つであることは間違いない。

安ければ安いほどいい、というのが普通の方の感覚だろうが、刑事専門の弁護士の方々は必ずしもそうは考えないようである。依頼者の社会的地位や資産、身柄を拘束されるに至った事情などを総合判断して、それなりの金額を裁判官に提示し、裁判官が保釈金の金額を決定するのが通常だろうと思う。

写真AC、日産サイト:編集部

ゴーン被告の保証金は合計15億円だったそうだ。

決して保証金として低い金額ではないが、それでもゴーン被告の海外逃亡を諦めさせるほどの金額ではなかった、ということである。

過去の著名事件では、保釈金が結局全額弁護費用になってしまった、ということもあるようだから、大変な資産家であるゴーン被告はこの保証金にはそもそも大して未練がなかったのかも知れない。

保証金には逃亡抑止力が殆どない、ということが、ゴーン被告の今回の海外逃亡で明らかになった。

ゴーン被告の弁護団の方々は、保釈を勝ち取るために様々な提案をしていたようだが、今改めて振り返ると弁護団の提示した条件にはそれなりの合理性があったようである。

パスポートのすべてを弁護人が保管する。
ゴーン被告にGPSを装着させ、ゴーン被告の動静を24時間体制で監視する、等々。

保釈を許可した裁判官は、多分性善説に近い考え方の持ち主だったろうと思う。

これだけの立派な弁護団が付いていて、これだけ高額の保証金を積ませておけば、世界的に著名な経済人として知られるゴーン被告が逃亡など考えるはずがない…。

GPSを装着させ、24時間監視体制を徹底さえすればゴーン被告の海外逃亡を阻止出来たはずだが、裁判官はどうやらGPSの装着は不要だと考えたようである。

最近は地区検察庁から逃亡したり、警察の施設から逃亡したり、保釈中に行方をくらます被告人が相次いでいるようである。

犯罪者は、隙あらば逃げるもの、と思っていた方がよさそうである。
出来るだけ人は信じたいのだが、性善説を取るのは、時にもより、人にもよる、ということだ。

窮鼠猫を噛む、という言葉がある。

司法関係者は、犯罪者や犯罪の嫌疑を掛けられている相手に対して絶対に隙を見せてはならない、ということだろう。
自戒を籠めて。


編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2020年1月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。