ゴーン被告が逃亡先のレバノンで記者会見をしました。再びゴーン氏を取り巻くニュースが世間を騒がせることになりそうですが、多くの記事はゴーン氏を取り巻く事象がごちゃごちゃになっているように思えるものもあるので本件を少し俯瞰してみたいと思います。
まず、ゴーン氏を取り巻く今回の問題をエレメント(要素)ごとに分けて考えてみたいと思います。
1 日産の最高経営責任者としての手腕、人格、能力
2 横領や特別背任を理由とする逮捕、取り調べと日本の司法制度
3 今回の逃亡事件
もう少し細かい分け方もできると思います。ルノー絡みも入れるべきなのかもしれませんが、ここでは省略します。
1 日産の最高経営責任者としての手腕、人格、能力
経営者としての能力は99年に日産に乗り込んできた後、破壊的なリストラを行い、倒産しかけていた日産を救ったという功績はありました。その後、ゴーン氏はリストラ能力は高いかもしれないが新車の開発能力は未知数と叩かれますが、GTRを出すなど一定の評価の巻き返しはあったと思います。ただし、電気自動車事業が軌道に乗らず、個人的にはゴーン氏の賞味期限はこのあたりまでだったのだろうと思います。
ゴーン氏がルノーから派遣されている立場だとすればルノーがその時点で人事異動させるべきだったはずです。ところが放置するのみならず、ルノー本体まで乗っ取る勢いを見せてしまいました。つまり、猛獣使いが猛獣に食われてしまったわけです。この点においてルノーの経営能力の低さを見せつけたといってもよく、当然ながら日産はゴーン氏に好きに食われる形になったわけです。よって私の見方は日産の株主であるルノーの怠慢(Negligence)もあったとみています。
西川元社長らが今般ゴーン氏の「懇談会」でやり玉に挙がっていますが、経営者としての資質、会社の私物化、未達の経営成績等を踏まえればゴーン氏の個人的怨嗟としか聞こえず元経営者として恥ずかしい限りです。
2 横領や特別背任を理由とする逮捕、取り調べと日本の司法制度
逮捕は妥当だったと思いますが、問題は日本の司法制度がいかんせん欧米のそれと異にする点でしょうか?制度的には欧米に比べて数十年は遅延していると思います。これはむしろ着眼と社会的背景の問題でこの司法制度はアジア独特のシステムかもしれません。
日本でも中国でも「悪しきを裁き、さらす」のが歴史的、伝統的に当たり前だったことで悪者を徹底的に懲らしめる(だから勧善懲悪のドラマは日本人に一番人気があります)のが普通なのであります。
よって日本でもめ事があると「訴えるぞ!」と人は反射的に言うケースが多いし、多くのケースは裁判で決着がつきます。そこで白黒がはっきりして「すっきりした」あるいは「悔しい思いをした」結末ドラマが生まれます。ところが例えば北米でみると訴えはしますが、裁判で白黒つけるケースは極めて少なくなっています。
私もこの15年ぐらいは裁判で白黒つけたケースはないです。最近のもめ事は全部Settlement(和解)という手段を使います。理由は案件が多く裁判官が足りないこと、そのプロセスが異様に長く、結局得をするのは弁護士だけで原告被告とも実質敗者になるからであります。もちろん、刑事事件は様相が違いますが、それでもアメリカでは積極的に司法取引を行い、巨額のセトルメントが見られます。
日本でも18年6月から司法取引制度が始まったところでゴーン事件もその適用対象だったはずです。
日本は一旦捕まるとほぼ有罪になるのは犯罪者が弁護士を伴って取り調べを受けられないため、取り調べ側と犯罪者の弁護や司法に関する能力の差を埋める手段がないからであります。これが一般に言う欧米に比べて不公平だと言われるゆえんの一つでありましょう。
ここは私のように長く外にいる者からみても正直遅れていると思います。
3 今回の逃亡事件
今回の逃亡についてはどう見ても許されるものではありません。弘中弁護士チームは降りることにするようですが、今回の逃亡は別事件であって弘中弁護士の守備範疇ではありません。但し、道義的な非難は浴びる気がします。それ以上にGPSがなぜないのでしょうか?
例えばここバンクーバーで保釈されているファーウェイの副会長、孟晩舟氏は足に巨大なGPSをつけています。まるで足かせのような大きさです。それが当たり前なのです。もう一つは保釈期間中でも移動距離を制限すべきだと思います。半径〇キロメートルといった制限はかけるべきでしょう。
制限距離を超える場合には所定の許可を事前に取得し、不条理にならない範囲で許可されるプロセスはとるべきでしょう。ゴーン氏が新幹線で好きに移動できるという自由そのものが緩すぎで取り調べの厳しさと保釈中の自由具合のアンバランスが異様に大きい気がします。
長くなりましたのでこの辺で止めますが、ゴーン氏は収監されるべきだし、彼はビジネスマンとしての自分の将来の道を絶ったと思います。キャロル夫人は当初から暗躍するタイプに見えましたし事実そうでした。
欧米の小説ならキャロル夫人は体を張ってゴーン氏を守ったという意味でヒロインになりえるのかもしれません。そんな小説、私ならお金を積まれても読まないと思いますが、人権問題がお盛んな今日この頃のトピックスとしては盛り上がるのかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年1月9日の記事より転載させていただきました。