最も狂暴なカルテルのリーダー、エル・メンチョの逮捕で米国とメキシコは一致
12月5日、メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(アムロ)大統領は米国からウイリアム・バー司法長官の訪問を国立宮殿にて受けた。ちなみに、アムロはロス・ピノス大統領官邸は贅沢だといって使用せず、自宅から通って国立宮殿で執務をしている。今も大統領専用機はもっていない。
この両者の会談で両国が今後協力してメキシコのカルテルの勢力を後退させ、今後カルテルで最大勢力に成長している狂暴なハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン(CJNG)のリーダーネメシオ・オセゲラ・セルバンテス(エル・メンチョ)を逮捕して米国に身柄を送還するという方針で一致した。昨年、これまでの麻薬王エル・チャポを終身刑に処したのと同様、今年はエル・メンチョを米国の法廷にて裁きたいというトランプ政権のプランにメキシコが協力することで合意したのである。
この両者の合意の中にはエル・メンチョの息子ルベン・オセゲラ(エル・メンチート)も米国に送還するということも加えられた。米国で麻薬の密売活動が最も顕著で活発なCJNGの組織を分解させようというのが狙いなのである。
メキシコに亡命していたエボ・モラレスは亡命先をアルゼンチンに変更
昨年11月、トランプ大統領がメキシコのカルテルをテロリストのリストに加えたいと表明した。そのように指定されれば、米国は必要時に米軍なりをメキシコに越境してカルテルに攻撃を加えることができるようになる。それはメキシコにとって国家の尊厳と威信にかかわる問題となって受け入れることはできない。
その後、トランプはこの指定したい意向を取り消した。そこには前述したアムロとバーの会談の合意が影響しているのである。
また、メキシコに亡命していたボリビアのエボ・モラレス大統領が昨年12月9日にメキシコを去って一時的にキューバに向かい、その後アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデスが同月10日に大統領に就任して直ぐにブエノスアイレスに飛んだ。これもアムロとバーの会談内容に関係しているのである。
すなわち、カルテルの勢力縮小に米国から諜報機関などの活動がメキシコ国内で活発になるということで、そのような事態になる前にメキシコを去ってアルゼンチンに向かいたいというモラレスの希望だったのである。(参照:vanguardia.com)
エル・メンチョの移動範囲は分かっている
前述したアムロとバーの会談で米国は諜報組織も加えた特別班を編成しメキシコに派遣する。その指示に従ってメキシコの海兵隊がそれを行動に移すということが決まったのである。エル・メンチョの行動範囲はグアダラハラ、プエルト・バリャルタ、ナバリッ、ハリスコ南部の山脈であることは判明していた。
ペーニャ・ニエト前大統領政権の任期満了になる僅か前の2018年10月から米国はエル・メンチョの逮捕に動いていたが、これまでメキシコ側の協力度合いに限度があった。それが今回の会談でメキシコも全面協力するということになった。
また既にメキシコで収監されているエル・メンチートについはこれまで彼の弁護団がエル・メンチートはメンチョの息子ではないと言い、更に色々な理由をつけて米国に送還することを阻止しようとしている。だが、今回の合意であらゆる手段を使っても米国に送還することが決まった。
彼らを米国で裁くための容疑は十分にある。資金洗浄の為に1億ドル相当の金の延べ棒を購入している。コカイン、メタンフェタミン、フェンタニルなどを大量に米国内で密売している。また、これらによる過剰摂取で死者も増加している。
さらにメキシコでも彼らはライバルであるロス・セタスへのメッセージとしてボカ・デ・リオのショッピングセンターの前に殺害した男性23人、女性12人の死体を放置するといった犯罪を犯している。また報復だとしてハリスコ州の公務員や警官100人を殺害している。彼らが犯した殺害は他にもたくさんある。(参照:vanguardia.com.mx)
エル・メンチョは重病で後継者を決めねばならない
トランプ政権が今回徹底してエル・メンチョの逮捕に踏み切った理由には彼が腎臓病で重病であるという情報を掴んだからであった。ハリスコ州の情報メディア『Unión Jalísco』によると、CJNGに近いある人物がエル・メンチョは病気が次第に進行しており、頻繁に人工透析が必要になっていることを明らかにしたという。
ということで、隠れ場所を頻繁に変えて行くことが難しくなっているそうだ。だから、アムロとバーは彼を逮捕するには今がチャンスだと判断したのだ。(参照:laverdadnoticias.com)
そうした事情があって、エル・メンチョは後継者を決めることにしたようだ。そこで先ず第一候補とメディアが予測しているのが、ファン・カルロス・バレンシアだ。カルテルミレニオのリーダーアルマンド・バレンシアが彼の父親だとされているが、また一方ではエル・メンチョの実の息子だとも言われている。というのはエル・メンチョの妻ロサリンダ・ゴンサレスは以前アルマンド・バレンシアの妻だったという関係からである。
次に候補としてエリック・バレンシア・サラサール(エル・85)とルイス・メンドサ(ラ・ガッラ)の2人がいる。エル・85はミチョアカン州のウルアパンを基盤にCJNGの存在を最も高めているひとりだ。ラ・ガッラは米国での密売を担当している。なお、この二人は資金的にシナロアのリーダーイスマエル・サンバダ(エル・マヨール)から支援を受けていると推測されている。というのは、シナロアは最終的にCJNGをシナロアに吸収したい狙いがあると見られているからだ。
エル・マヨールはエル・チャポの不在の時はこれまでリーダー役を務めて来た人物だ。
さらに、後継者としてウーゴ・ゴンサレス・メンドサ・ガイタン(エル・サポ)がいる。この彼は米国の麻薬取締局(DEA)が最も狂暴な人物だと見ている。
エル・メンチョの息子エル・メンチートも米国に送還されることが決まっているため、後継者の人選には8つの分派でかなりの困難が伴うものと推察されている。
同様に、エル・メンチョの病気を利用して、例えばグアダラハラではCJNGのライバルであるティフアナ・ヌエバ・ヘネラシオンやロス・デルタスが勢力を拡大しようとた企むであろう。(参照:unionjalisco.mx)
米国と毎年30万人が麻薬が関係して死亡している
米国でのカルテルによる麻薬の密売による被害者は2013年から数えると30万人にも及ぶという。ということで米国はメキシコそしてコロンビアのカルテルの撲滅に必死なのである。(参照:elimparcial.com)
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白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家