企業統治改革3.0は敵対的買収と会社訴訟による多元的けん制機能の発揮へ

日経のWEBニュースのみの記事ですが「(金融最前線)相次ぐ敵対的買収『三田証券は押さえたか』」はたいへん勉強になりました。昨年から今年にかけて、TOBや委任状勧誘による敵対的買収案件がとても増えましたね。直近でもレオパレスや前田道路など、興味深い事例が報じられています。

三田証券サイトより

そのような中で、敵対的買収の行方を左右する証券会社として「三田証券」に注目した記事ですが、

方針は明確だ。敵対的であっても、既存株主にとってメリットがあり、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化につながるTOBであれば受託する。保有株を高値で買い取らせるグリーンメーラーには協力しない。

との社長の発言は、まことにその通りかと。2014年に始まった企業統治改革も、ガバナンス・コードが改訂された2018年から「形式から実質への深化」が進み、モノ言う株主の力が増してきました。しかしながら「取締役会改革」を中心とした改革にはどうも限界があるようです。

日経ビジネス2019年6月17日号「ガバナンス新時代への提言」の中で、神田秀樹教授(学習院大学)は概要、つぎのように述べておられます。

ガバナンス改革の焦点の一つは、取締役会の役割をどう位置付けるかだ。かつて日米の企業は経営者の力が強かった。米国では1980年代から敵対的買収などで株主が経営者をコントロールするようになり、その後、機関投資家の発言力も増した。しかし敵対的買収案件や企業間の訴訟案件が少ない日本では取締役会に経営者をけん制する役割を求めすぎる面がある。日本でも、今後はもっと敵対的買収が増えていくべきだし、企業間の裁判がもっとあっていい。経営者を監視するガバナンスは買収、訴訟などを含め多元的にけん制機能を働かせることが必要だ。

そういえば昨年はヨロズ仮処分事件があり、また、今年は株主(機関投資家)による代表取締役の解任請求訴訟(ネット上に訴状が全文公開されています)が始まっています。

取締役改革が本丸まで来ておりますが(人事、報酬、持ち合い株解消等)、それでも限界に来ているとなれば、「改革3.0」は、まさに敵対的買収と企業間訴訟によるガバナンス改革が浸透するかもしれませんね。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年1月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。