世界が注目する二つの裁判が本格的に動き出し、その行方に注目が集まります。世界で最も早い成長率でトップクラスに躍り出た中国のIT企業、ファーウェイの創業者の娘で副会長兼CFOである孟晩舟被告の審理、もう一つは同じく世界トップクラスのIT企業、サムスン電子の創業家会長である李在鎔被告の差し戻し裁判であります。
双方ともあまりにも著名で巨大な企業になったにもかかわらず、トップが拘束された事態はたまたま偶然の出来事だったのでしょうか?企業側と政治が複雑に絡み合い、成長を求める企業への高い代償だったのかもしれません。
しかし、その背景に強い政治色が見え隠れしていたとすれば時間とともに政治の色も変わる点を考えなくてはいけません。裁判の公平性とは何なのか、影響力を配慮し、世論を見据えた裁判官の保身的判断が下されるようになるのか、このあたりはAIにはできない人間のなせる技が潜んでいるかもしれません。広義の意味での情状酌量であります。
孟晩舟被告についてはバンクーバーの最高裁で審理が継続しており、長ければ秋まで続くとされています。事実、その報道は連日、当地のニュースとなっていますが、あくまでも感触的な見方ですが、割と早い時期に判断が下され、釈放されるように感じます。犯罪者引き渡し条約に基づき、アメリカはカナダに孟被告をアメリカに引き渡すよう要求していますが、ならないとみています。そうならなくする理由など作れるわけで「逮捕するときの手続きがまずかった」という理由を裁判所が前面的に採用すればそれまでであります。
なぜ、裁判所は孟被告にとって有利な判断を下すと私が考えているのかといえば、もともとカナダは中国との貿易量を含めた関係は強く、ファーウェイの製品についてアメリカが主張するような禁止措置は取っていません。とすればカナダはこの裁判を通じて孟被告に「やり過ぎだった」と判断すれば中国との関係は改善するでしょう。
カナダにおける中華系人口が占める割合は非常に高く、バンクーバーで3割、トロントで1割程度となっています。そこから生まれる政治、経済、世論などは無視できない規模となっており、カナダ特有のバランス外交が存在します。故にファーウェイの件もカナダにとってよほどのことがない限り、アメリカにそこまですり寄る気はなく、一裁判の案件としてどこまで対イランの進出に絡む虚偽説明が孟被告と紐づけされるか、となりそうです。
一方、サムスンの李在鎔被告でありますが、朴槿恵前政権の際の絡みであり、「大統領からのお願い」がそもそものきっかけとされる贈賄に対する差戻裁判です。こちらは春ごろまでには判決が出そうです。昨年あたりは李被告が再収監されるとみられており、李被告も取締役から降りるなど収監への準備を整えていました。
ただ、韓国の風見鶏裁判制度は世論や社会情勢を極めてうまく取り込んで判断する傾向がある点に鑑み、私はこちらも逆転の猶予刑になるとみています。理由は韓国の経済がうまく回っていないこと、文大統領への逆風があり、サムスン電子の経営を混迷化させるかもしれない裁判所の判断は韓国経済再浮上のきっかけを失うという判断があるから、と考えています。当然ながら4月15日の韓国総選挙も視野にあります。
サムスンは仮に李被告が収監された場合、経営のかじ取りを巡ってグダグダになるのは目に見えています。サムスン電子内部からの得た情報では李健煕氏の存在感が消えた現在、息子の在鎔氏がサムスンのベクトルを維持できるかの瀬戸際にあるようで、すでに一部では次を見据えた動きもあるようです。韓国人の気質はそんなものであり、権力闘争が起きるのは当たり前であります。そうさせないためには李被告をサムスン再生だけではなく、韓国再生のために再度チャンスを与えるという判断がより自然に見えるのです。
世の中、極論的判断は下らない傾向が強まっています。トランプ大統領の数々のディールも双方のネゴシエーションをもとに落としどころを決めます。司法取引においてもウィンウィンの関係になるように仕組まれています。
この行方を含め、裁判の在り方も今後一つの焦点となってくるでしょう。大金をかける裁判に果たしてどれだけの意味があるのか、司法の変質化も考える時代になるのかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年1月27日の記事より転載させていただきました。