少し混乱はあるものの、小泉大臣の「ブンアン2」発言は頼もしい

小泉環境相は21日の大臣会見でベトナム石炭火力発電への支援について発言した。本稿は環境省サイトの会見書き起こしを基に、意味の不明瞭な個所もある大臣の発言を「ブンアン2」なる案件の概要および石炭火力にまつわる日本の課題などと共に考えてみたい。

NHKニュースより

ブンアン2

案件はベトナム北中部ブンアンに立地する石炭火力発電所の建設。事業主のVAPCO(Vung Ang 2 Thermal Power Company)は、香港のCLPホールディングスと三菱商事の香港子会社DGAとの折半JVの子会社One Energy社が100%出資する特別目的会社で、本社は英領ケイマンにある。

融資は公的機関が日本の国際開発銀行(JBIC)、民間は三菱UFJ・みずほ・三井住友(財務アドバイザーも)・三井住友信託の日本の銀行勢のほかシンガポールと英国の3行、予算規模は約22億米ドル(約239億円)、建設開始は20年、稼働開始は24年の予定だ。

ブンアン2は既設のブンアン1の隣に600MWの超超臨界圧石炭火力発電(USC)を2基建設する。法務と技術のアドバイザーは豪州とフィンランドの企業、設計・調達・建設は、中国のEnergy China GPECと米国のGEの予定だ(国際環境NGO FoE Japanのサイトより)。

本件は、ベトナムでの石炭火力発電所の建設を日本が資金を貸して中国と米国が行う枠組みの、ODAに準ずるものといえよう。国交省資料にもODAであるベトナムの交通インフラ整備と並んでブンアン2を含む発電所建設が載っている。

小泉大臣の会見内容

会見は大臣の発言と記者との質疑に分かれる。発言のポイントは次のようだ。

  • 石炭火力プラント輸出では、COP25で関係省庁といわゆる輸出4要件について問題提起した。ベトナムのブンアン2は、日本商社が出資し、JBICが入り、プラントメーカーは中国のエナジーチャイナとアメリカのGE。4要件で聞いてきたロジックは日本がやらないと中国が席巻するということ。ブンアン2の、日本がお金を出し、つくっているのは中国と米国という実態はおかしい。この具体事例を契機に、各省庁との議論と問題提起を引き続き行っていきたい。
  • 各省との調整は引き続き続く、そういう理解だと申し上げましたが、まさにこういったことも含めて議論をしていきたい。そして、より国際社会、国民の皆さんからも理解できる政策の形につなげていきたいと考えています。そして、日本が石炭火力で批判で覆われている一方で、隠されているというか、広く国際社会に伝えきれていない先進的な取組を引き続き発信をしていきたいと思います。

前段は発言趣旨の要約、後段は発言のままだ。前段は解る。21日の産経もこの会見発言を『「出資は日本、建設は中国。おかしい」小泉環境相が海外支援案件に異論』と報じた。が、後段で述べていることは、詰まるところどういうことなのだろうか。

日本の石炭火力発電政策が「国際社会」から批判を受けている中、大臣が「引き続き発信をしていきたい」と思う「広く国際社会に伝えきれていない先進的な取組」とは何かといえば、USC(超超臨界石炭火力発電)などの優れた日本の技術だと思われる。「USC」は記者との質疑応答で出てくる。

まず質疑応答の中で大臣が述べた「石炭火力発電輸出4要件」の中身を記しておく。

  1. エネルギー安全保障及び経済性の観点から石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限る
  2. 我が国の高効率石炭火力発電への要請があった場合
  3. 相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形であること
  4. 原則USC以上(IGCCなどの意か?)であること

そして記者との質疑応答。

(記者)環境省としては、ブンアン2の事例に関しては不適切であり、撤退すべきだという意見をお持ちだという理解でよろしいのか。

(大臣)(発言前段部を述べ…)この石炭火力についての問題意識として私が申し上げたのは三つありました。価格の競争力、これが一つ目、二つ目が相手国の脱炭素化を結果として阻害して、相手国のエネルギー政策をロックインしてしまうということ。三つ目が他国との技術的な優位性が低下してきているということ。そのまさに4要件の最後の一つが、日本が誇る最先端のUSC以上ということ。それだけを普通聞けばその4要件に合致したものというものは日本の超々臨界の技術だと思いますよね。実態は違うわけです。違う例があるわけです。そういったことも含めた問題意識を私は申し上げました。

ブンアン2は輸出案件でない

今回の問題で混乱しそうなのは、4要件は石炭火力の輸出に関するものである一方、ブンアン2は輸出ではなくて出資・融資案件だからだ。大臣は輸出4要件の話を出資・融資案件でしている。ODAに当て嵌めれば、紐付きなら進めて良いが、紐付きでないならやめるべきだ、と言っているように聞こえる。

また「普通聞けばその4要件に合致した…日本の超々臨界だと思いますよね」と言いつつ「価格競争力」と「技術的優位性の低下」にも言及するが、これも輸出の話だ。小泉大臣には「日本のUSCがなぜブンアン2で採用されなかったのか、各省庁との議論を引き続き行う」と明瞭に整理して欲しい。

優れた日本のUSC技術

日本の石炭火力の高効率=低CO2排出には定評がある。Jパワーの発電端効率資料(14年)によれば、日本は43%程度、中国は06年の32%程度が38%程度まで急上昇、米国は36%程度で横ばいだ。なお、同社のUSC磯子新1号は45%程度となっている(グラフ読み取りにつき「程度」とした)。

石炭火力に関するIEEJ資料(15年2月)によれば、中国の石炭火力増加率は10年頃から国内が落ち、輸出が上昇している。中国メーカーは国内へは高効率設備を、海外へは亜臨界圧の低効率設備をより多く供給するのに対し、日本メーカーは国内外共にUSC等の供給率が高い。14年9月現在、中国メーカーによるUSCの輸出実績は見当たらないともある。

これら資料から推す限り、日本のUSC技術が中国や米国に劣るとは思えない。だとすれば、ブンアン2での中国・米国の採用は価格だろうか。価格なら、出資と融資に日本が絡んでいるのだから、公的な支援、例えば金利とか一部無償など、で日本の優れた設備を通せなかったのかとの疑問も湧く。

やはり根本は石炭火力への国際的な批判があるために、優れてはいても日本の石炭火力を強く推せないのだろう。如何にも日本らしいがおかしな話で、輸出4要件のごとき立派過ぎる項目をクリアせずとも、国際社会の目など気にせず日本の技術を強く進めることが、むしろ国際社会のためになると思う。

小泉大臣がもし同じ思いなら、次は外務か経産大臣にでもなってその実現を目指してもらいたい。