医薬品輸入赤字5年連続2兆円:画期的な創薬を阻むサラリーマン的発想

中村 祐輔

1月の後半に、2019年度の貿易統計の速報値が発表された。医薬品分野では輸出もわずかに増えたのだが、輸入額が初めて3兆円を超える状況となり、赤字額が2兆3479億円となった。これで医薬品分野での赤字額は5年連続で2兆円を超えることとなった。

2010年に医薬品貿易赤字が1兆円超となり、これが内閣官房医療イノベーション推進室の発足のきっかけのひとつとなったのだが、赤字は急増を続け、2015年に2兆円を超えた。その後、多少の増減はあったが、2兆円を超える赤字が続いている。

2011年に発足した医療イノベーション推進室は、その後、健康医療戦略室と名前を変え、AMEDと連携して日本の健康医療戦略を立案、実行していくことになっている。しかし、10年後、20年後を見据えた戦略をとっているのかどうか、外から見ていてもあまりわからない。

医薬品開発は、期待通りに進まないのが常だが、日本で本当にイノベーティブな薬剤開発をするのが難しい理由として科学的・文化的背景がある。科学的な背景の一つは、真に目利きができる人材がいないことである。

2番煎じ、3番煎じのゾロ新(ピカ新と対比する言葉であり、ピカ新はこれまでになかった画期的な薬を指し、ゾロ新はピカ新と同じ標的に対する新しい化合物薬・抗体薬を指す)を作ることはできるのだが、ピカ新は作れない。これまでの歴史を見ていても、改良品(ゾロ新)で日本の企業は生き延びてきたところが大きい。

そして、ピカ新が作れない理由の文化的背景は、責任の所在と失敗のリスクだ。ピカ新、すなわち、全く新しい標的に対する薬剤、あるいは、新しいコンセプトの薬剤を開発しようと思うと、当然ながらハイリスク、ハイリターンで失敗確率はゾロ新よりもはるかに高い。

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一度失敗すると出世街道から外れてしまうような日本の文化的背景では、「責任を取りたくないサラリーマン的発想」が、海のものとも山のものともわからないようなピカ新を手掛けようという気持ちにブレーキをかけてしまうのだ。もちろん、国を挙げての取り組みといっても、臨床試験に必要な膨大な資金を国が負担するのも無理であり、行き止まりから脱失しようとしてもがいても先が見えないのが実情だ。

このように考えれば、「日本はこのまま画期的な新薬輸入国であり続ける」のが結論となってしまう。寂しいことだが、国としての危機感もさほど感じされないのだ。

国としての危機感といえば、新型コロナウイルス対策も「人権」が「公衆衛生」よりも強く、武漢からの帰国第1便の乗客2名が検査を拒否して自宅に戻ったと報じられていた。

一人の権利と、国民全体のリスクバランスを判断していくのだが、愚かのメディアと決断できない政治が、公衆の衛星に対する判断を歪めている。検査を拒否した人の健康状態を監視しているそうだが、公衆衛生の観点から見た国民全体の利益を考えるとあり得ないと思った。

ある番組で、橋下徹氏が、日本には感染していない人を強制的に隔離する法律はないので仕方がないと言っていたが、それならば、国会で「桜」や「IR」よりもこの議論を進めるべきではないのかと思った。大震災時の民主党政権のドタバタぶりから、野党の人たちの国家への危機意識は期待する方が間違いなのだろうが、どこからみても、新型コロナウイルスの方が、優先順位が高いのではないか?


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年2月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。