新型肺炎で見る中国共産党の「詭弁」

長谷川 良

中国新型肺炎に関する2本の記事の内容を紹介する。

最初は、駐イスラエルのダイ・ユミン中国代理大使(Dai Yuming)がテルアビブで記者会見を開き、そこで新型コロナウイルスの拡大防止という理由で中国人の入国制限、追放が展開されている状況に不満を表明し、「(中国人追放は)世界第2次大戦時の最悪の出来事、ユダヤ人大量虐殺ホロコーストを想起させる」と発言したと伝えた記事だ。

▲中国人への出入国制限をホロコーストと比較したダイ・ユミン中国代理大使 2020年2月2日、「タイムズ・オブ・イスラエル」紙のHPから

▲中国人への出入国制限をホロコーストと比較したダイ・ユミン中国代理大使 2020年2月2日、「タイムズ・オブ・イスラエル」紙のHPから

その直後、イスラエル国内だけではなく、世界各地でこの発言に対しブーイングが起きた。当然だろう。世界各国の中国人入国制限は感染拡大阻止という理由からだ。ナチス・ドイツ軍のユダヤ人大虐殺とは全く異なった内容だ。

同代理大使の発言は、イスラエル政府が中国に渡航歴にある人の入国を禁止すると発表したことを受け、遺憾表明の中で飛び出したものだ。同代理大使は自身の発言への反発が高まってきたため、「私の発言は誤解される内容があった」と謝罪し、発言を撤回せざるを得なくなったばかりだ。

ちなみに、同外交官は「第2次世界大戦で迫害されたユダヤ人を救済した国はごく限られていた。中国はその国の一つだった」と強調し、「イスラエルが中国人に対しその戸を閉じないことを願う」と述べている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、1933年から41年、欧州に住んでいた約3万人のユダヤ人が上海に逃げた。

もう一つはFOXニュースだ。中国新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル人が強制的に再教育収容所に拘束されているが、新型コロナウイルスが同収容所の関係者に感染した場合、「狭い収容所で多数が収容されている場所だけに新型コロナウイルスの拡大にとって理想的な状況だ」と警告している。幸い、収容所で新型コロナウイルスの感染者が出たという情報はないが、状況は非常に危険だ。

中国新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル人が強制収容所に送られ、非人道的な扱いを受け、コーランが焼かれ、モスクが閉鎖され、イスラム神学校が閉校させられ、聖職者たちが次から次へと殺され、強制的に収容施設へ送られている。この状況こそ、ユダヤ人大虐殺を想起させるような内容だ。

国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は昨年11月24日、中国共産党政権の機密文書「チャイナ・ケーブルズ」(China-Cables)を公表したが、中国当局が同国北西部にウイグル人強制収容所を設置し、ウイグル人を組織的に弾圧し、同化政策を展開していると報じたばかりだ。

なお、ポンペオ米国務長官は昨年7月18日、国連で演説し、ウイグル人ら数百万の強制収容について、「現代における最悪の人権危機で、まさに今世紀の汚点だ」と非難している。

中国人追放、中国人フォビア現象をホロコーストと比較し、中国人の受け入れを拒否し、その国境を閉鎖する国の対応をナチス・ドイツ軍の蛮行と比較する一方、その中国で中国共産党政権が少数民族を再教育、職業斡旋という名目で強制収容しているのだ。新型コロナウイルスが世界的に拡大している時、拘束されている約100万人のウイグル人の健康状況が懸念されるが、中国共産党政権はそれを全く無視している。そして中国人の入国禁止は「世界保健機関(WHO)の推奨事項に反する」と詭弁を弄しているわけだ。

中国共産党政権は都合のいい時、「われわれは犠牲者」と装い、その一方、自身が加害者である少数民族への弾圧政策という事実を隠蔽する。中国武漢発の新型コロナウイルス情報に対し、世界が懐疑的に受け取る理由はその偽善的言動にあるからだ。新型コロナウイルスは中国共産党政権の体質を図らずも明らかにしているといえる。

もちろん、中国共産党政権と中国民は別だ。多くの中国人が共産党政権下で不当な扱いを受け、自由な言論活動もできない状況下で生きている。新型コロナウイルスの拡大下で中国民が犠牲となっている。それだけではない。例えば、欧州に住んでいる中国人が不当な扱いを受けるケースが出てきた。地下鉄でも中国人を含むアジア人との同席を嫌う人が出てきた。一部では、中国人のレストラン入りを拒む店も出てきた。出入国を禁止されている中国人は文字通り、犠牲者だ。新型コロナウイルスが一刻も早く撲滅されることを願うばかりだ(「『中国共産党』と『中国』は全く別だ!」2018年9月9日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年2月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。