企業経営者と企業価値

決算シーズンで明暗を分けるケースが多くみられます。その激しい動きを見ると企業経営者の存在感とけん引力がその価値を大きく左右することもありそうです。今日はそのあたりを見てみましょう。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

テスラ。つい2年前まではクズ株のように言われ、創業者のイーロンマスク氏はまともに稼働しない工場にいら立ちを見せていました。泊まり込みで対策を練り、「友人に会えないことが一番つらいこと」とコメントしていたことが印象的でした。多くの方が同社のことをこっぴどく叩き続けましたが、18年の夏ぐらいからようやく生産ラインが稼働し始め、月5000台がクリアするようになると同社の評価は少しずつ変わり始めます。

それでもボロ株で株価は下がると賭け続けるファンド筋と着実に業績が変わり始めてきていることに気づいた投資家の間で激しい拮抗が起きるものの株価はその均衡をブレイクし、上昇に転じます。2月3日のテスラの株価は20%上昇、4日も20%近く上昇し、900ドル台とあり得ない株価を呈しています。もちろん、これはバブル価格なのですが、信用の売り方がギブアップした買戻しが相当入っていると思われ、いづれ株価は下落に向かうはずです。ただ、時価総額は160ビリオン㌦となりGMの50ビリオン㌦の3倍以上でも買い向かうのは投資家が時代の変化を見ているのかもしれません。そしてなぜ、この会社がこれほどもてはやされるのか、それはイーロンマスク氏の存在なくして語れないでしょう。

1月の北米自動車販売。0.9%増と予想を上回る好調ぶりで1月だけで113万台が売れています。ドイツ高級車やトヨタ、韓国系が販売台数を伸ばす中、あり得ないほど販売台数を落としたのが日産で20.8%の下落となっています。普通2割減はないでしょう。しかし、売る車がないのが同社の現状なのかもしれません。

なぜでしょうか。ルノーとのバトル、ゴーン氏の作り出した悪評、日産の新経営陣体制のわずかひと月後のほころび、内田誠新社長の存在感の薄さ…と自動車製造とはかけ離れた話題ばかりが先行しました。私はこのブログで新経営陣はカリスマ性のある人材を持ってくるべき、と申し上げていたのですが、その人材選びを完全に間違えてしまったようです。

もう一例上げましょう。ZOZO。昨年9月、創業者、前澤友作氏が売却し、ヤフーがその経営権を買い取りました。前澤氏の経営も正直、後半になって失策が増えていたのですが、同社のイメージそのものが前澤氏と同体化していたかもしれません。ヤフー傘下になって広げてみた決算書という通信簿は大幅減益で株価は一時20%近い下げにみまわれました。

日本電産の永守会長が反省の弁を述べています。同社の執ってきた集団指導体制に対して「呼び名はいいが、強いリーダーがいないとだめ。5、6人で決めていたのではだめだ。中国との戦いがあり、時間がかかってはいけない。集団体制に移行しようとしたが、それは創業以来の最大の間違いだった」(日経)というのです。

このポイントは引っ張り上げられる人が常識観を飛び越え、従業員や関連会社へどれだけの影響力を示せるのか、そしてどれだけ早く物事を動かせるかという時代に変わったというふうに聞こえます。

ただ、この引っ張り上げられる人材は誰でもよいわけではありません。世の中、カリスマ性のある人などそうたくさんいるわけではないのです。そしてカリスマ性はどうやって育まれるかといえば若い時にどれだけやんちゃをしてそれなりに成果を積み上げてきたか、そしていくつかの大きな修羅場をくぐり抜けて大きなことをやり遂げたことが武勇伝となり、一般の人には足元にも及ばないレベルに昇華することであります。

上記の例は上場会社の話ですが、どんな小さな会社や商店でも同じことが言えます。会社の社員はベクトルに向かって仕事をしています。ベクトルとは社是とか経営方針といったことではなく、「この人と仕事をしたい」「仕事の仕方を見てみたい」と思わせるベクトルなのです。従業員10人の小さな町工場だってオヤジさんが手を油で真っ黒にしながらも従業員を見渡し、指導し、激励しながら進んでいく家族だからこそ結果がついて来ることもあります。

最近の経営は数字や経営分析といったテクニック論がもてはやされますが、会社経営は案外もっともローテックな人間だけが生み出せるテクニックも無視できないものであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年2月5日の記事より転載させていただきました。