アメリカ大統領選挙の季節がやって来た。世界広しと言えども、本選挙以上に注目を集める選挙は存在しない。しかし、選挙戦のうんちくを語る人が選挙のルールやアメリカ社会の実情にどの程度通じているのかを判断するのは、素人には困難だ。
新聞社のワシントン支局長を務め、アメリカ政治を長年観察してきた著者は、「選挙はその国の政治を知るための窓」であると言う。選挙の争点から一般の有権者が選挙戦へ関与する度合いまで、選挙戦のあり方は各国で様々だ。従って、アメリカの大統領選挙においても日本人が注目するポイントと実際にアメリカ人が重視する争点では必然的にズレが生じる。「日本絡みだけにとらわれていると、選挙戦の全体像を見誤る」と著者が警告する所以だ。
実際に、アメリカ人が重視するのは日本人が期待する対中対韓への厳しい外交政策よりも、同性婚や人工中絶、移民と言った価値観や日常生活に関わる内政問題である。また、各州ごとに選挙人を奪い合うルールであるため、政権支持率だけを見て一喜一憂するよりも、各州の政党支持率の優劣を正確に押さえることの方が遥かに重要であるとも著者は指摘する。
本書ではアメリカ大統領選挙を見る上での基本中の基本も解説するするが、意外にもこれらの基本を無視して議論する識者も多いから要注意だ。
また、著者は大のスポーツファンである。各スポーツ選手の人口動態やファン層の人種別分布などを詳説する点が、本書の独自性であろう。アメリカでサッカーは根付かないと長らく言われてきたが、急増するヒスパニック人口がサッカーを人気スポーツに押し上げた。
一方で、アイスホッケーは「選手にも観客にも黒人やヒスパニックが全くいない真っ白な世界」だという。そのため、試合会場で酔っ払った観客たちが発する言葉に耳を澄ませていると、白人たちの露骨な本音を知ることが出来るそうだ。このような社会構成の変化や分断によって生じた超大国アメリカの今を正確に掴めるか否かが、来たる秋の本戦を占う上での分かれ道となろう。
世界中が固唾を呑んで見守る選挙であればこそ、次から次へと垂れ流される情報に踊らされることなく、能動的に楽しみたいものだ。そのために、外国人である私たちは思い込みや願望で語り合うのではなく、アメリカの現地事情に通じた「公式観戦ガイドブック」が必要だ。
本書は、私たちが考えている以上に急速な変化を遂げているアメリカ社会の事情や選挙のいろはを教えてくれる。
小林 武史 国会議員秘書