「極狭物件」は次のトレンドになりうるのか?

岡本 裕明

バンクーバーで住宅開発を推進していた時、一部屋150㎡クラスの高級集合住宅として計画を進めていました。ところが、ある著名な住宅販売会社の社長が我々にプレゼンテーションしたのは一部屋40-50㎡の当時のカナダとしてはあり得ない極狭物件の開発案でした。これを受けて社内外の関係者を集めた会議は喧々諤々の議論となります。

結論的には極狭物件はバンクーバーを代表する地にある当該開発にはなじまないこと、デベロッパーとして投資家向けの住宅ではなく、エンドユーザーを目指すべきと考えました。そのためには戸建て住宅からの住み替えを促進する許容可能な「しかるべきサイズ」が必要だということで小さいユニットの開発案は消えました。それから20年経った今、あの時、極狭物件を作っていたら私は今頃、肩身の狭い思いをしていたと思います。

一方、東京で私はシェアハウス事業をしていますが、やり始めの頃、4畳半程度の個室と共有スペースの組み合わせのライフスタイルがどこまで受け入れれるのか正直、疑心暗鬼だったところはあります。もちろんサイズの問題もありますが、それより共同生活が居住者の間で馴染むのか、という懸念であります。

それ故に私のシェアハウスは建物の2-4階をそれぞれ独立型のシェアハウスにして3つ、別々の塊を作ります。次にそれぞれのフロアに入居していただく方の組み合わせに気を使ったのです。学生さんと社会人と欧米系外国人とアジア系外国人というセグメント、および入居までのやり取りをしている間にパッと感じる入居者の性格を読み取り、社交性や几帳面さからベストな組み合わせを考えています。今、ちょうど引っ越しシーズンで人が動くこともあり、その組み合わせ調整の最中にあります。

ここまでするとシェアハウスでも共同生活への抵抗や弊害を軽くすることができ、定着率が高くなります。

一方、しばらくするとどうしてもシェアは嫌だ、という方もいらっしゃいます。その方々のためにシェアハウスとアパートの両方を取り入れた物件を開発しました。名付けて「カップルハウス」で最大2名で利用できる家具付き、WiFi付アパートであります。これは欧米系外国人を入居者の主な対象としてマーケットテストをしています。

日経に「わずか3畳『極狭物件』無駄ない生活、若者に人気」という記事があります。なぜ人気があるのか、記事には駅近くで時間効率がよく、狭い分、価格が抑えられているからとあります。このタイプの物件が今後、増えるのかどうか、でありますが、個人的にはLivableではないと考えています。

住宅とは寝られればそれでよいのか、という話です。3畳に家賃6万円も高いでしょう。光熱費や家具代を考えると7万円以上になると思いますが、新宿区の私の物件はその3倍のサイズで家具付きで10万円ちょっとです。

極狭物件が日本の若者に許容されたのはマンガ喫茶などの2-3畳のところで寝泊まりすることを受け入れた世代が生み出したものではないかと考えています。しかし、いくら駅近とはいえ、足の踏み場もない生活が日本の若者に許容されてよいのか、という精神衛生的懸念があるのです。基本的には行政が制限すべきだと思っています。

正直、私でもその気があれば山手線駅徒歩7分以内で3畳アパートなら5-6万円で提供できる開発は簡単にできます。物件もすぐに手に入りますが、道義的にやりたくないのです。儲かれば何でもいい、というものでもないと思うのです。

私も住宅開発がライフワークのようになっていますので我々が向かう社会があるべきことをしっかり考えるようにすべきだと思います。私はそのために行政があり、許認可のプロセスがあるのだと思います。トレンドになる前にそれを許すのか、検討すべきでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年2月6日の記事より転載させていただきました。