個人でいらなくなったものを売買する仕組みを提供するメルカリは2013年に設立され、18年に上場を果たします。しかし、上場後の業績はさえず、10-12月決算も営業利益で68億円の赤字と前年同期比6倍に膨れたと報じられています。株価も上場直後の6000円から現在は2000円程度と1/3となっています。
あれだけ話題になったメルカリが苦戦する理由はどこにあるのでしょうか?経営という観点から考えてみます。
メルカリの赤字の元凶はアメリカ事業にあります。ところがアメリカ事業はいつか花が咲くと必死のテコ入れを続けています。なぜ、そこまでアメリカ事業にこだわるのでしょうか?創業者の山田進太郎氏が数ある成長路線の選択肢の中でアメリカ市場の大きさと成長力を考え、そこに的を絞ったとインタビューで答えています。
私はここがあいまいだと思うのです。日本人の多くがアメリカを目指します。ビジネスでもスポーツでも、かつては芸能人もラスベガスを目指した時代がありました。それは今でもアメリカは夢の世界で自分を異次元の世界に連れて行ってくれると信じているからでしょう。山田氏はeBayがヤフオクの10倍の規模がある、だから自分もその市場に向かうというロジックなのです。
同じ論理は中国に進出する日本企業にもいえると思います。なぜ、中国かといえば市場が大きいから、と一様に答えが返ってきます。気持ちはわかるのですが、違う市場の制覇はたやすくないのです。
まず、現地企業と手を結び、市場に参入することからスタートし、それでも何度も間違え、失敗しながらも着実に進める時間と資金の余裕が必要なのです。この好例が自動車のスズキが築き上げたインド市場でしょう。ところが最近は企業も株主もメディアも目先の結果を求めます。これが必要以上のプレッシャーとなっていないでしょうか?
次にメルカリはスマホ決済事業を立ち上げ、メルペイを世に送り出します。また、最近は日本のスマホ決済事業の起原ともいうべき「オリガミ」を買収しています。私にはメルカリがスマホ決済事業に傾注する意味が分からないのです。リユースを扱う企業なのにどんどん「楽天化」しているのです。楽天化とは様々なサービスをすべてそろえることで市場を総取りするする戦略を意味するのですが、メルカリは申し訳ないですが、楽天の足元にも及ばない専門業者なのです。
私が経営者ならリユースの深掘り、そしてそれを支えるインフラがあれば十分です。スマホ決済を自社で持つ優先度はぐっと下がります。本業としてたとえばリユースの最大市場は中古住宅はどうでしょうか?これを改築し、住みやすくするお手伝いをして中古市場を活性化させる事業とか、ちょっと調子悪くなった家電やパソコンをリユース(リファービッシュ)する市場などまだまだあるでしょう。私が一番面白いと思うのはママチャリのリユースです。
放置自転車の行方、これは大半が海外に流れます。リユースされるのは5%程度とされます。これはもったいない話です。ママチャリは新品で安くても1万円はします。これを整備して5000円で市場に出せば相当な取引になるでしょう。
メルカリの利用者はなにを売買しているのか、男女ともトップス、バッグ、アクセサリー、トレーディングカードといった非常に限定されている商品構成であるところに弱みを見ています。つまりリユースの本来あるべき広がりが全然ないのです。
言い換えればメルカリはもっと本業回帰をすべきだと考えています。アメリカなんてどうでもいいですし、スマホ決済事業なんてなくてもいいと思います。経営のあるべき方向が違うのだろうと思います。
日本の新興企業には斬新なアイディアで飛び出し、注目を浴びる会社は多いのですが、そのあと鳴かず飛ばずになるケースは非常に増えています。かつてスマホゲームで話題になったグリーの名前を最近耳にすることはありますか?あるいはDeNAが今回の決算で大赤字となりました。この会社は私は昔から研究しているのですが、社長の守安功氏は創業者の南場智子さんの優しさにずっと支えられているという構図が見て取れるのです。あれこれいろいろやるけど中途半端で最後に南場さんがしりぬぐいをするパタンです。
若手の企業にはもっと頑張ってもらいたいのですが、流行とか、話題に流されがちに見えます。もっと自分の事業は何なのか、腰を据えてしっかり見つめるべきでしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年2月7日の記事より転載させていただきました。