時々ソフトバンクのことをこのブログで話題にしますが、お好きではない方がいらっしゃるのはよく存じています。そのお好きではない理由は出自なのだろうと思います。そうはいっても話題の多い同社は日本で三本指に入るわけで時折議論する意味はあると思っています。
今回、同社にとって面白い事態が発生しました。アメリカの投資グループでアクティビストのエリオット マネージメントが同社の約4%の株式を取得したのです。理由は株価が不当に「安い」ためで取得した後、早速株価が安すぎるじゃないか、とクレームをつけます。
私は以前ここで同社の株価は20000円を超える価値もあるというアナリストの声を紹介したことがあります。当時同社株は10000円程度だったと思います。その後、下げ基調になり、ウィワーク問題もあり、遂に5000円を割るのです。つまり、当初に比べ本来あるべき価値の4分の1程度になってしまうのです。
それに対してモノ言う株主であるエリオット社のポール シンガー代表は「ならば自社株買いで対応せよ」と孫正義氏に迫るわけです。結構なことではないでしょうか?確かに同社はウィワークなどで下手をしましたし、私もその手法に厳しいコメントを述べました。もう、孫さんのマジックは通用しないんじゃないか、と。ウィワークなんてITでもなんでもないのにこんな会社に資金を突っ込むのはセンスがないと心底、不満を述べました。(ちなみに私はソフトバンクの株は北米でも買うことはできるのですが、一株も持っていません。)
一方、同社が所有する上場会社の株式の資産はアリババの15.4兆円をはじめ、全部で約30兆円。それに対して同社の時価総額は10兆円しかありません。ちなみに時価総額10兆円というのは意味ある数字で、現在、トヨタ(25.6兆円)に次ぐのがNTT(11.1兆円)、ソフトバンク(10.6兆円)、NTTドコモ(10.5兆円)、ソニー(10.0兆円)、キーエンス(9.3兆円)と激しい2番手争いの集団を形成しています。
私は昨年の5月のブログでソフトバンクの時価総額という点においてはトヨタを凌駕してもおかしくないと申し上げました。これは今でもそう思っています。同社の投資会社や株主としてのチカラはとてつもないものであります。一方で製造会社であるトヨタ、ソニー、キーエンス、あるいは実業会社であるNTTやNTTドコモとは比較の土壌に乗らないのでどちらがトップになろうが意味がない話だと思っています。(銀行業に売り上げという概念がないので比較できないのと同じです。)
私はソフトバンクグループをNY上場に切り替えた方がよいのではないかと思っています。日本でこの会社は正当な評価は今後も得にくいし、同社のマネージメント自体が完全に日本から離れています。
何年も前に私はバンクーバーにある日本食レストランの話をご紹介したことがあります。立派な店をバンクーバーに作ったのに鳴かず飛ばず。理由はサーバーがワーホリの片言英語で注文だけ聞くというセンスだったことでした。そこでオーナーはマネージメントを変え、フロントラインであるサーバーを全員白人ないし、ネイティブイングリッシュで顧客のハート取り込める(=20%のチップが取れる)サービスを施し、オープンカウンターの内側には日本人のシェフたちが職人技の料理を芸術的に作るわけです。この結果、この店は映画業界などで話題になり、今でもなかなか予約が取れない店になっています。
ソフトバンクはこのレストランと同じで極論すれば日本での上場の必要はないと思っています。(納税という意味なら別ですが。)日本での同社の顔は携帯のソフトバンク会社で十分なのです。投資会社であるならば世界のアメリカ、ニューヨーク市場で勝負すべきで日本を上場の主要基地にする意味は全くないと思っています。孫氏自身も常駐場所を日本から移してもよいのではないかと思っています。
アメリカには巨大な投資会社、ファンドなどがごろごろ存在しますが、今、それらの会社は投資という一心不乱のお金儲けという立場から社会に必要なところにお金を廻す、あるいは閉鎖的であり、社会貢献が少なく、あるいは資金を十分に活用できていない会社にその反省を促し、会社経営を正しい方向に向ける「経営の警察官」になりつつあります。
ソフトバンクが目指す投資とはその一翼を担うことだと思っています。孫氏はベンチャーキャピタルを通じて新興企業を世に送り出すお手伝いをしているという「社会的存続意義」を考えていると思いますが、日本では単なる金儲け会社としか捉えられていないし、孫氏もまだ、そのメッセージをきちんと伝えることができていないようです。
会社が放つメッセージをきちんと受け止めてもらうことがこれほど重要な意味があることを教えてくれたのもソフトバンクなのかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年2月10日の記事より転載させていただきました。