トランプ政権が10日、予算教書を公表しました。2021年度(20年10月~21年9月)予算案として4.8兆ドルを提示。裁量支出のうち防衛支出が前年比0.3%増の7,405億ドル、非防衛支出は同5.0%減の5,900億ドルとなっています。小さい政府を目指す共和党政権らしく、非防衛支出は削減方向にあるわけです。ただし、予算教書はあくまで大統領のウィッシュ・リストなので、この割り当てがそのま予算に反映されることはありません。成長率3%を前提とした歳出・歳入見通しが議会予算局(CBO)より楽観的なのは、そのためです。
義務的支出に目を向けると、高齢化や人口増、格差拡大などを抱える米国で社会保障費は当然、年々増加傾向にあります。問題はいかに支出を抑制するかで、予算教書ではメディケイド(低所得者層向け公的医療保険)やフードスタンプ(食料購入クーポン)、失業保険の不正受給防止を狙った受給資格厳格化などを盛り込みました。他にも、学生ローン支援プログラムを束ねており、一連の流れがバッシングを招いているもようです。
各省庁の予算をみてみましょう。退役軍人省向け予算を前年度から13%増、アメリカ航空宇宙局(NASA)向け予算は12%増、国土安全保障省は3%増、財務省は2%増となりました。
NASA向け予算はアルテミス計画が主因ですが、財務省向けがなぜ増加したか、気になりますよね?これは、仮想通貨もとい暗号資産取り締まりなどを背景にシークレットサービスを国土安全保障省の管轄から戻すための予算増加なんです。
シークレットサービスと言えば、大統領を警護する強面の体躯のいいスーツ姿の男性を連想しますが、マネーロンダリングを始め偽造など金融不正取引を取り締まりも、ミッションのひとつなんですよ。本来は財務省下の機関だったわけですが、同時多発テロ事件発生後のブッシュ政権(子)で2003年に国土安全保障省へ移管したものを、古巣へ戻そうという話になりました。なぜなのでしょうか?
シークレットサービスの財務省への復帰はズバリ、暗号資産やデジタル通貨の取り締まり強化を意味します。予算教書では「過去数十年間の技術的発展が、暗号資産を生み出し、国際金融市場での相互関連性を深めた結果、犯罪組織は格段に複雑化し、テロリストやならず者国家とネット金融犯罪の結びつきを強めていることが判明した」と指摘。シークレットサービスを財務省の管轄下へ戻すことは、一連の犯罪捜査に「新たな効率性を生み出す」と説明しています。
念頭にあるのは、北朝鮮やベネズエラなどで横行中と目される暗号資産での資金調達なのでしょう。
暗号資産の代表格、ビットコインは奇しくもトランプ政権発足後に乱高下。
もうひとつ、忘れてならないのが対中戦略です。米中貿易協議は第1段階の合意で署名したとはいえ、中国はデジタル人民元の導入を計画中。戦線が電子世界へ移るなか、シークレットサービスがFRBと連携するにあたり、国土安全保障省より関係が近い財務省下にいた方が捜査をスムーズに進められるに違いありません。
中国によるサイバー攻撃多発も、移管の一因ではないでしょうか。米司法省は2月10日に、米信用調査会社エキファックスに不正侵入し1億4,700万人の情報を流出させたとして、人民軍第54研究所所属のハッカー4名を起訴していましたよね。
対中強硬派のナバロ大統領補佐官は米中貿易協議・第1段階合意署名後まもない1月17日、第2段階協議で企業補助金や合成オピオイドの一種であるフェンタニルの輸出を取り上げると発言したほか、サイバー攻撃停止の必要性を主張したものです。ビットコインなど暗号資産はサイバー攻撃の格好のターゲットであり、デジタル通貨もハッキングと無縁でない。トランプ政権が座視するとは到底考えられません。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2020年2月日13の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。