2021年度の予算教書演説:インフラとアルテミス

予算教書のお話を、もうひとつ。

(カバー写真:NASA

予算教書に盛り込まれた注目ポイントは、10年間で1兆ドルのインフラ投資ではないでしょうか。既存のプログラムから8,100億ドル新たなプログラムから1,900億ドルを割り当てます。トランプ大統領が公約と掲げ、実現していない数少ない政策となります。

そのうち8,100億ドルは、2015年末に成立したアメリカ陸上交通修復法(FAST)が今年9月末に期限切れを迎えるなか10年延長した場合に基づきます。FASTにより、米連邦準備制度理事会(FRB)の保有資産から生じる金利収入、戦略備蓄放出の利益、内国歳入庁(IRS)による徴税強化などが道路信託基金向けの義務的支出として組み込まれました。この法制度を2021年度以降も継続させるとして、義務的支出から7,550億ドルを割り当て、残り550億ドルは一般会計から引き出すといいます。一連の措置による内訳は、以下の通り。

(作成:ホワイトハウス、OMBよりMy Big Apple NY)

ここで注目は、新たなプログラムとして提示された1,900億ドルです。ここに「米国の地方再生(Revitalizing Rural America)」が含まれています。一般教書演説で言及した地方での高速インターネット接続普及を始めインフラ整備のほか、遠隔治療サービス(telemedicine services)の提供も目指す、意欲的な計画です。一般教書演説後に原稿を引き裂いたペロシ下院議長ですら、この部分では起立して拍手していましたっけ。

(作成:ホワイトハウス、OMBよりMy Big Apple NY)

ところでRevitalizing  Rural Americaの名前、どこかで聞いたことがありますよね?実はオバマ前政権や民主党指名争いで前線に立つサンダース候補が掲げる政策と同名なのですよ。普遍的な名称ながらトランプ憎しの民主党陣営に馴染みがあり、且つ大統領選・議会選前に無視しづらい政策と言えます。選挙前に採決に至るかは微妙ながら、トランプ政権が実現に向け支持層にアピールすること必至です。民主党候補との討論会で、どのような舌戦が繰り広げられるのでしょうか。

個人的には、インフラ投資もさることながらアルテミス計画が気になるところ。ざっくりアルテミス計画をご説明すると、アポロ計画(1961~74年)に続く、NASAによる有人宇宙飛行計画。1969年7月、人類初の有人月面着陸を果たしたアポロ11号から半世紀、次の計画として、ギリシャ神話の太陽神アポロンの双子である月の女神アルテミスに因んでスタートしました。アポロ計画が終了した1974年から50年後の2024年に男女2人を月面へ送る計画で、成功すれば「女性宇宙飛行士として人類史上初の月面着陸」に。また、2028年までに月面基地を建設、最終的には火星探査を目指す壮大な計画です。

(出所:NASA

日本は、安倍首相が出席した宇宙開発戦略本部の会議で、月の周回軌道上に建設予定の宇宙基地“ルナ・ゲートウェイ”の参加を確認してますね。“ルナ・ゲートウェイ”には日本以外にも他欧州、カナダ、ロシアの宇宙開発・研究機関が参画しています。

NASAのブライデンスタイン長官は、技術協力などで貢献した国の飛行士を月面に送る可能性についてコメントしていたので、日本人がムーンウォークを披露する期待も各国以外に、企業も参加済みで研究・開発・運用など委託企業はボーイング、ロッキード・マーティンと大手航空・防衛企業の他、NTTデータやドコモと提携するマクサー・テクノロジーズ、それにジェフ・ベゾス氏率いるブルー・オリジン、イーロン・マスク氏率いるスペースXなど少なくとも20社近くにのぼります。

未知なる宇宙への踏み出す一歩としても、市場で大きな飛躍が期待できる銘柄を探す上でも、興味は尽きません。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2020年2月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。