トランプ劇場、フィナーレを飾ったのはペロシ議長

いやはや、トランプ大統領はさすがリアリティ・ショー上がりのショーマンですね。78分にわたる演説では、様々な演出を凝らしトランプ劇場を盛り上げました。トランプ氏が演壇に立つや否や、共和党議員による「あと4年(four more years!)」コールが沸き起こる・・・2016年の共和党大統領候補レース中に誰が想像したでしょうか。

(カバー写真:The White House/Flickr)

上演時間は89分という記録を作った2000年のクリントン大統領超えかと思いきや、意外にも78分でした。トランプ氏の過去3回で最も短かったんですね。

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(作成:My Big Apple NY)

華麗なるショーの開幕まもなく、ベネズエラのグアイド議長が上下両院合同本会議場に姿を現し、アッと言わせたものです。トランプ氏はキューバやニカラグアにも言及しつつ、ベネズエラに対してはグアイド氏こそ真の指導者であり、マドゥーロ独裁体制を「崩壊させる」と宣言。民主社会主義者を謳うこの方が民主党大統領候補レースでリードしつつあるだけに「社会主義は国家を破壊する」と、痛烈な皮肉を放つことも忘れません。薬価引き下げを要請する場面でも、「社会主義者に米国のヘルスケアを潰させてはならない」と執拗に繰り返していました。

会談も行い、ベネズエラの今後を協議。

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(出所:The White House/Flickr)

その他、一般教書演説に花を添えたゲストと関連の演出は以下の通り。

●2016年共和党大統領候補レースで自分を猛烈に批判していた保守派の論客で、前日にステージ4の肺ガンを告白したラッシュ・リンボー氏に大統領自由勲章を授与

メラニア夫人に大統領自由勲章を掛けられ、感無量なリンボー氏。

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(出所:The White House/Flickr)

●21週と6日で超未熟児として誕生し生死を彷徨った2歳児とその母親を紹介し、小児ガン向け予算確保を訴え

●ペンシルベニア州知事が奨学金制度拡大に拒否権を発動し、進学の道が絶たれたシングルマザーの娘に奨学金を付与、2016年に火花を散らしたテッド・クルーズ議員発案の「教育の自由と奨学金の機会を与える法案」の可決を要請

●アフガニスタンの最前線に従軍していた夫、その妻子の感動的な再会

●宇宙軍創設に関連して、宇宙飛行士となるべく空軍士官学校を目指す13歳の少年と、初の黒人戦闘機パイロットとして第2次世界大戦やベトナム戦争で出撃した100歳になる退役軍人の曽祖父を紹介

上記以外にも、ゲストとしてPTSDと薬物中毒を克服した黒人の退役軍人、起業で成功した黒人の退役軍人、イスラム国に娘を惨殺された夫婦、カリフォルニア州の聖域都市で兄を殺害された弟などを招き、政策の必要性をアピールするとともに自身の成果を誇示したものです。

ゲストの居住地を州別でみると、アリゾナ州を始めアラバマ州、オクラホマ州、カリフォルニア州、ケンタッキー州、テキサス州、ノースカロライナ州、ペンシルベニア州、メリーランド州となります。このうち、黒人系とヒスパニック系は12人中7人2019年の19人中4人を大きく上回っていました。スーパーボウルの広告と合わせ、完全に黒人・ヒスパニック票を狙った作戦でしょう。

今回、意外なことにこちらで指摘しましたように中間層向け減税について言及しませんでした。北朝鮮にも、触れませんでしたね。新型コロナウイルスで米中貿易協議・第1段階の履行が懸念されるなかも、中国を批判せず。中国側が第1段階の合意発効約1週間前の6日に対米追加関税を引き下げたように、選挙戦の間は貿易戦争の再開を回避しそうな雲行きです。トランプ政権は、2020年に選挙戦に向け内政に集中する地合いが整いつつあります。

トランプ劇場の参加者は、ご本人とその仲間たち、共和党陣営だけではありません。

民主党側も、彩りを加えます。民主党女性議員はペロシ下院議長を始め真っ白な装いで登場。これは1920年8月、約100年前に婦人参政権条項が批准された記念なんですよね。ちなみに2019年も同じく白で統一し、トランプ氏の一般教書演説初登場の2018年は、逆に#Metooムーブメントに合わせ黒で結束力をアピールしていました。メラニア夫人はその辺りを加味したのか、2018年は真っ白のパンツスーツ、2019年はと2020年は真っ黒のワンピース姿で登場しました。メラニア夫人なりに、ファッション・ステートメントで夫を立てたのでしょう。

民主党女性議員が純白に身を包む一方、注目株のオカシオ-コルテス下院議員(NY州)のほかアヤナ・プレスリー下院議員など2018年中間選挙当選組からベテランまで複数名がボイコットしました。同じく2018年選出のラシーダ・トライブ議員(ミシガン州)は出席したものの、最高裁判事指名でセクハラ問題を抱えるカバナー氏の名前が出るや否や、退場する始末で、反トランプ色を明確に打ち出したものです。反対演説は、接戦州ミシガンの女性知事が担当しました。

トランプ劇場のフィナーレを飾った人物こそ、誰あろうペロシ下院議長です。一般教書演説の冒頭でトランプ氏に握手を無視されたペロシ氏、演説終了後に原稿を引き裂いてましたね。ここばかりが注目されますが、演説中に何度も「so untrue」とつぶやき、SNSで大きな話題を集めたものです。トランプ氏からスポットライトを奪う意図があったのなら、ある意味大成功ですね。

握手を無視されたペロシ氏、ツイッターで「民主党は、人々のため役割をしっかり果たすべく友情の手を広げることをやめない」と反撃。

対立深まる共和党と民主党ですが、トランプ氏はこちらでご紹介したような政策協力を求めました。このうち、インフラ整備と薬価引き下げは両党の懸案事項ながら、インフラ整備をめぐり民主党陣営は2018年に提出した上院案を骨組みに検討するでしょう。薬価引き下げも一般教書演説中にコールした「H.R.3(製薬会社との薬価交渉の役割を、民間の薬剤給付管理会社から米厚生省へ移管することが柱)」を推進すること必至。双方の役者がどのように演じるのか、米国民は固唾を呑んで見守っているに違いありません。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2020年2月6日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。