米国のシンクタンクCSISが、中国のスパイ行為と知的財産盗取の対抗策を議論する会議を2月6日に開催したと、12日の「大紀元」が報じた。CSISのサイトを見ると、会議はクリストファー・レイFBI長官の挨拶で始まり、ウィリアム・バー司法長官の基調講演などもある、かなり権威があるもののようだ。
大紀元によれば、会議で米国家防諜安全保障センター長官は「中国が国産を自称する大型旅客機C919は盗まれた米国の技術で作られた」とし、「海外企業へのサイバー攻撃」で「技術的難関を突破」し、「ボーイング社やエアバス社から市場シェアを奪取することが中国側の狙いだ」と解説したそうだ。
同長官は具体的な模倣技術例として、エンジンは米仏合弁のCFMインターナショナル、補助電源システム・電気システム・着陸装置は米国ハネウェル、燃料システムは米国パーカー・ハネフィン、フライトレコーダーは米コングロマリットGEなどを挙げたという。
WikipediaにC919は、「当初は外国製のエンジンとアビオニクスを搭載する予定で、現在CFMインターナショナルとの契約がなされ、開発中のLEAP-X1Cエンジンを搭載」し、「国産のエンジンCJ-1000Aを開発中」とあるので、技術盗取ではなさそうにも思えるが、今後の成り行きに注目だ。
同記事は、米司法省が「民間航空機からの商業秘密盗用の罪で18年から19年にかけて起訴した中国人4人」の名を挙げ、一人はマルウェア「Sakula」の開発者愈氏で、米司法当局に起訴され18ヵ月服役した後、「中国に戻り上海商業学校で“サイバーセキュリティ”の講師に就いている」ともある。
昨年12月24日のロイターを見ると、コンピューターネットワークのセキュリティとプログラミングの専門家である兪氏の被害者は「マイクロチップのサプライヤーQualcomm Inc、航空宇宙防衛企業のPacific Scientific Energetic Materials Co、そしてゲーム会社のRiot Games」とのこと。
残りの3名は「伝統的な“人の手によるスパイ”」で、GEなどの勤務先から機密情報を持ち出していたと大紀元は報じている。筆者はこのニュースを読んで、ヴェノナ文書が暴いた、戦時中のソ連による米国からの原爆やジェット機の技術盗取のことを思い出した。そこで以下にそれらを紹介する。
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この重要な事案2件には、ローゼンバーグ事件で知られるユダヤ系米国人ジュリアス・ローゼンバーグが関係する。彼は妻エセルと共に、エセルの弟でこれもスパイのグリーングラス(当時、ロスアラモスの原爆工場勤務)が盗んだ原爆機密をソ連に提供した容疑でFBIに逮捕され、死刑に処された。
米国がヴェノナ計画を秘密にしていたことから、証拠がグリーングラスの自白だけだったこともあり、サルトルや原発開発に関係したアインシュタインやオッペンハイマーなど、大勢の著名人らが除名嘆願したことでも知られる事件だ。が、後に公開されたヴェノナでその犯罪が明らかにされた。
ローゼンバーグは巨大なスパイネットワークを持ち、その中には原爆スパイの一人である英国人科学者のクラウス・フックスやジェット機スパイのウィリアム・パールらがいた。また、ローゼンバーグ自身も勤務していたエマーソン・ラジオから「近接信管」の試作品を盗み出し、ソ連に渡していた。
近接信管とは目標を直撃せずとも近くで爆発する信管で、南方の海戦で我が連合艦隊を悩ませた。ヴェノナには、「ソ連がこの諜報上稀に見る大成功」によって、ローゼンバーグに「価値を見出したことは疑いなく、褒賞として45年3月に1,000ドルのボーナスを与えた」とある。
そこでパールの話。彼は40年に卒業したCCNY(College of the City of New York)でローゼンバーグと同期で、NASAの前身のNACAに職を得、その後LFP(Lewis Flight Propulsion)研究所に移ったが、有能な航空科学者として一連の米軍極秘プロジェクトに参加した。
同研究所で彼はジェット推進と音速飛行を研究するグループを監督した。FBIがローゼンバーグの組織を調べ始めた50年に、パールは連邦大陪審に呼ばれた。その時、FBIはパールの犯罪を知らなかったにも関わらず、彼は宣誓の下でローゼンバーグを知らないと述べ、偽証罪に問われて服役した。
後にヴェノナはパールに関する14通のKGB暗号通信を解読した。44年5月10日付のKGBニューヨーク(NY)からモスクワ宛の1通は、Vultee Aircraft社が開発した長距離戦闘機と試作ジェット機に関してパールが提供した情報について言及していた。
同月20日付の1通はWestinghouse社が開発したジェットエンジンに関するパール情報を、7月の1通はKGB-NYがモスクワにNACAに関するパール情報を外交行嚢で送ったことを伝えていた。9月の1通でKGB-NYはパールに関し、ローゼンバーグの他の情報源と同様5百ドルのボーナスの価値があるとモスクワに伝えた。
1944年11月の1通は、KGB-NYがモスクワに対し、パールの情報は価値があり豊富なので、研究所のあるクリーブランドにパールのスパイした情報の取扱いに専念するリエゾンを送り込むに十分値すると伝えていた。ローゼンバーグはシドロヴィッチ夫妻を推薦し、モスクワも同意した。
後年FBIがローゼンバーグの組織を捜査した時、同夫妻がライカを所有し、45年には銀行から一銭も引き出さずに現金で自動車購入の支払いをしたことが判明した。モスクワのKGB本部は45年3月、妻のアンをもっと活用して月々50ドルの手当を支払いたい、というKGB-NYの計画を承認した。
夫と同様に彼女にも米国での共産主義運動の背景があった。彼女は、米国共産党のウクライナ語新聞の編集者で、自身もウクライナ移民について報告し何人かのKGB情報源のリエゾンとして機能するKGBスパイだったMikhail Tkachの娘だった。
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以上はヴェノナ文書のローゼンバーグの項の記述から要約した。先の大戦中にソ連が米国にしていたと同じことを、いま中国が米国などの西側に仕掛けているということか。ここ最近の米中貿易戦争や香港問題やCOVID19などの騒ぎで潜行してはいるが、この事件も「中国製造2025」の一環であろう。
最後に、パールのこの犯罪が朝鮮戦争で米国に与えた衝撃に関するヴェノナの拙訳を引いて本稿を結ぶ。
政府の若く素晴らしい航空学者であるウィリアム・パールは、米国のジェット機とジェットエンジンの高度な秘密テストと新しい設計手法の結果をソ連に渡していた。彼の裏切り行為はジェット開発で技術的に先行していた米国を、ソ連が短期間で凌駕することを助けた。
朝鮮戦争で米軍のリーダーたちは、北朝鮮や共産中国が使うソ連製航空機など米軍機の敵でないと決めてかかり、米空軍が空を席巻すると予想していた。彼らはソ連のMiG-15ジェット戦闘機が米国のプロペラ機のみならず米国の第一世代ジェット機よりも著しく優れていたことに衝撃を受けた。
米国の最新ジェット戦闘機F-86セイバーを早く配置することによってのみ、米国はMiG-15の技術的能力に対抗できた。そして米国空軍は、米国航空機の設計よりも米国人パイロットの技量に依存することを優先したのだった。