コロナウイルス感染拡大:非常事態の薬剤開発

中村 祐輔

感染源不明の義理の親子関係にある2人のコロナウイルス感染者が出た。神奈川県の80歳代の女性は不幸にも亡くなり、彼女の義理の息子はタクシー運転手であった。和歌山県でも、外科医の感染者が確認された。タクシー運転手と外科医は多くの方に接する職業である。タクシー運転手の症状や勤務状況は不明だが、外科医は発熱を抑えて診療にあたっていたという。

国立感染症研究所サイトより:編集部

患者さんの予約が入っていたり、手術予定があるとなかなか急に休みが取れないのが実情だし、国内での人―人感染に対する危機意識がほとんどなかったので仕方がない。元外科医として、甘いかもしれないが心情的には理解できる。ただし、本日からの病院の対応は大変だろう。

昨日を境に、コロナウイルス感染は新たなフェーズに入ったように思う。新たな対応策が必要だ。どこからどのように広がったのかわからないので、病院は異次元の対応が不可欠だ。医療関係者は、倦怠感と発熱が伴う場合には、勤務を避けるかどうかの判断に迫られる。

特に、がん化学療法、腎透析、自己免疫疾患で免疫を抑えるような治療を受けている患者さんに関わっている医療関係者は要注意だ。抗がん剤で白血球が減少している場合には、持病があるかどうかといったレベルでは済まない。

それにしても、クルーズ船での対応が後手後手になっているのはどこから見ても明らかだ。海外からの批判の声も大きくなってきている。前回も指摘したが、危機管理の基本は「最悪」を想定した対応だ。埼玉県のケースも、子供が一緒だったのでやむを得なかったと言っていたが、「最悪」を想定した発想がなかったのは歴然としている。確かに法的な根拠の観点で難しかったのだろうが、現状は12月の武漢と同じと仮定したシミュレーションに基づく対応が必要ではないのだろうか。

検査体制の整備の遅れも、「最悪」を想定していなかったことが明らかだ。以前のブログで、厚労省の役人が「クルーズ船では273人以上の検査は必要ない」と断言していたことに対して問題提起をしたが、恐れが現実となってきた。日本という国を救うために何をすべきなのかといった客観的でクールな、そして、大胆な判断が求められる。ボヤで消火すれば延焼を回避できるが、大火事になると大損害につながる。

しかし、どの時点で思い切った手を打つのかは難しい。「…したら、…..していれば」という過去を振り返ることはできず、結果論で評価されるので、判断は厳しいが、「最悪」を想定した思い切った手を打たなければ、中国のように「あとの祭り」と化す。

そして、急がれるのが薬剤だ。新しいコロナウイルスの薬剤開発は時間的に無理なので、報告事例から考えると、HIV治療薬やインフルエンザ治療薬、あるいは、その併用が最も近道だ。ただし、「エビデンスがない」という科学的思考力に欠ける人が反対すると何も動かない。

しかし、承認薬は少なくとも安全性が確立しているのだから、何も治療法がない患者さんを見殺しにするよりも、命を救うために可能性に賭ける発想が必要だ。倫理的な手続き論で無駄に時間を費やすよりも、目の前の患者さんを救うための英断が必要だと思う。

医師は患者さんの同意のもとに、これらの薬剤の可能性に賭けることができるはずだ。医師とは何か、医療とは何かを問いかけられているのではないのか?どうする、日本の医療は!


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年2月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。