XFLに学ぶ新リーグのValue Propositionの作り方

米国では、Super Bowlが終了して息つく暇もなく新フットボールリーグXFLが2月8日から開幕しました。XFLは、WWEのプロモーターだったVince McMahonが作ったプロフットボールリーグで、実は2001年に立ち上げて1年で経営破綻した経緯があります。今回は捲土重来を期した再チャレンジなのです。

XFL公式YouTubeより:編集部

最初のチャレンジの時は、チアリーダーのお色気やプロレス仕込みの派手な演出など、どちらかというとフットボール以外の要素が注目されてしまい、Week 2での不運な全国放送中の停電などもあって評判が落ち、経営が立ちいかなくなってしまいました(XFLの経営破綻の経緯はESPNの名作ドキュメンタリー「30 for 30」が“This Was the XFL”として詳しく特集しています)。

まだ開幕してWeek 1を終えただけですが、1回失敗しているだけあって、練りに練られてリーグ経営が行われている様子がヒシヒシと伝わってきており、業界関係者の評判も上々です。今回は、XFLのような後発リーグがプロスポーツとして成功するために考えなければならない点について、ケーススタディ的に書いてみようと思います。

以前「スポーツ経営におけるValue Propositionの重要性」「流行り言葉で思考停止にならないために」などでも書きましたが、リーグ経営でも球団経営でも施設経営でもそうですが、最も重要なのは、自分の組織の「Value Proposition(訴求価値)を考える」ことです。換言すれば、競合が真似できない自身のユニークな強みは何なのかを考え抜き、徹底的な差別化を図ることです。特にこの発想は人気のないマイナー競技や2nd Tier(上に同じ競技でレベルの高い既存リーグが存在する)の競技には不可欠な発想です。

Week 1のXFLの試合中継を見ていて気付いた点を列挙すると、

  • ヘッドコーチとQBの無線でのプレーコールのやり取りがそのまま聞ける(視聴者はプレーが始まる前にどんなプレーなのかが分かる)

⇒これはプレーを事前にネタバレさせることで新たな観戦体験を生み出しているわけです。野球なら、試合前にバッテリーのサインをファンに公開しているようなイメージでしょうか。投手の投げる球が事前に分かれば、プレーを先読みして見られるわけで、視聴体験も大幅に変わります。フットボールなら、プレーコールが事前に分かっているのはオフェンスの選手だけですから、視聴者も選手やチーム関係者と同じ立場に立ってプレーに臨めるわけですね。これは無茶苦茶面白いです。

  • ビッグプレー(TDやインターセプト)した選手やコーチに、プレーの直後に速攻インタビューする

⇒ビッグプレーを終えてまだハアハア言っている選手へのインタビューは選手のテンションが直に伝わってきます。視聴者の頭にプレーの残像が鮮明に残っているうちに、選手の視点からプレーを振り返ってくれるのは、試合後の記者会見などより圧倒的な臨場感があります。

  • TDの後のPATに1点、2点、3点のバリエーションが提供されている(普通は1点か2点が選べるだけ)

⇒これはフットボールを知らないと分かりにくいかもしれませんが、ラグビーに例えれば、トライの後のコンバージョンキックの距離を選べ、距離によって2点、3点、4点などが選択できるようなイメージです(普通は2点だけ)。無理してサッカーに例えると、ペナルティエリア外からゴールを決めれば2点みたいなものでしょうか。こうしたルール変更によって得点がダイナミックに動くようになるので、より高い戦術性が求められるようになり、見ている方もハラハラする機会が確実に増えます。

  • 脳震盪が起こるリスクが最も高いとされるキッキングゲームで、危険な接触が起こらないようにルールが大きく変更されている

⇒百聞は一見に如かずなので、以下の動画をまずみて下さい。

通常カバーチーム(キックを蹴る方)はボールが置いてあるラインから全力疾走してリターナーを止めに行くわけですが、XFLでは脳震盪の発生を防止するためにカバーチームとリターンチームを5ヤード離れて対峙させる方式を採用しています(これなら勢いがつかないため脳震盪が起こりにくい)。NFLがこんなドラスティックなルール変更をしようとしたら、キッキングのスペシャリストやコーチが職を失うことに直結するので、やりたくてもできないのです。

  • プレークロック(プレー終了から次のプレーを開始しなければならない間隔)は25秒で(NFLは40秒)、ハーフタイムも10分(NFLは12~15分、カレッジは20分)と短い

⇒試合時間の短縮が大きな課題になっている中で、プレーの質を多少犠牲にしてでもペースアップを図る強い意志が見られます。

  • 女性審判が必ずいる

⇒XFLでは各試合での審判クルーのうち必ず1名は女性を入れないといけないルールになっています。女性の社会進出をエンパワーするツールとしてスポーツが注目されつつある中での画期的な取り組みと言えそうです。こういう旬なトレンドを迅速に取り込むXFLのビジネス感度は非常に高いです。近い将来、少なくとも選手の1名は女性でないといけない、みたいなルールも出てくるかもしれません。

上記を見てみると分かるように、これまでカメラやマイクが入ることが許されなかった“聖域”を公開したり、競技のルールそのものを変えてしまったりと、ことごとく既存の常識やタブーを覆しているのが分かります。

競技軸が強い日本のスポーツ組織は“競技ドグマチック”になりがちなため、「野球とはそういうもんなんだ」「そんなのサッカーじゃない」「グランドは神聖な場所なんだ」といった理由にもならないような理由から新しい試みが否定される傾向が強いです。

もちろん、トップレベルのプロスポーツは正統的な競技を提供する責務があるでしょう。でも、人気がなくて困っているようなマイナー競技や、トッププロリーグとの差別化を図る必要がある後発リーグや下部リーグが競技の正当性だけを主張しても自分で自分の首を絞めるだけかもしれません。

まだWeek 1が終わったばかりのXFLの成否を評価するのは早計ですが、少なくとも「XFLはフットボールに新たなイノベーションを起こした」という評価は共有されているようです。まさに、イノベーションは辺境から生まれるのです。


編集部より:この記事は、ニューヨーク在住のスポーツマーケティングコンサルタント、鈴木友也氏のブログ「スポーツビジネス from NY」2020年2月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はスポーツビジネス from NYをご覧ください。