「監査等委員会設置会社のベストプラクティス」について考えるべき時期では?

紺色らいおん/写真AC(編集部)

今年から、神田秀樹先生(学習院大学教授、東大名誉教授)が、判例時報に「会社法・金融法、随想-立法事実からみる、近況・課題」なる連載論稿を執筆されています。

現時点で読めるものは1月11号(2425号)における「上場会社の機関設計と監査等委員会設置会社」のみですが、会社法(上場会社関連)→会社法(中小会社関連)→金融法、と続く「随筆」はとても楽しみです。

第1回は「監査等委員会設置会社のベストプラクティス」をメインに語られていますが、すでに1000社を超える上場会社の監査等委員の皆様の中で、どれくらいの方がお読みになっているのでしょうか?神田先生の問題提起は、ご自身で「今後のベストプラクティスにゆだねられた課題である」と述べておられますが、私からみると「(広い裁量は認められるものの)善管注意義務の実践」のお話ではないかと思えるのです。

「妥当性監査」ないし「妥当性監督」の権限行使の局面において、指名委員会等設置会社における監査委員会と取締役会とは「共同・連携」して行うことは理解できるのですが、監査等委員会設置会社における監査等委員会(監査委員会と異なり、監査等委員会には、監査役のような独立性が制度上確保されています)と取締役会では、この権限行使はどちらが担当すべきなのか、実は明らかにされていないし、監査等委員会(監査等委員)の行動のモノサシとなるべき実務指針や監査基準でも明らかになっていません。

(ここからは私の推論ですが)おそらく監査等委員会設置会社というのは、限りなく監査役会設置会社に近い状況でガバナンスを機能させることも(たとえばマネジメント・モデルによる取締役会構成を採用する)、限りなく指名委員会等設置会社に近い状況で機能させることも(たとえばモニタリング・モデルの徹底も)可能なので、監査等委員の行動規範の中身も明確にできないのかもしれません。

そして、仮にモニタリング・モデルに近い(取締役会の)運用を目指すのであれば、「監査等委員会設置会社のベストプラクティス」を平時から検討しておく必要があるのだろうな、と思います。

ただ、これだけ東証ルール(ガバナンス・コード)を遵守している上場会社が多いのであれば、実質的にみれば監査等委員会設置会社を選択したすべての上場会社が「モニタリング・モデル」のガバナンスを実施すべき(少なくとも目指すべき)とは言えないでしょうか?

単に社外取締役を増員する目的だけでなく、迅速果断な経営判断を実現する目的のために監査等委員会設置会社に移行した上場会社でも、「監査等委員会の経営評価機能」をきちんと機能させている会社はほとんど見当たらないのは、私には「会社法違反」に映ります。

ということで、神田先生は、監査等委員会は、取締役会の定めた「経営の基本方針」に基づいて、一定の時期ごとに業績の評価を実施することが考えられる、と述べておられます。その評価の報告は「指名・報酬に関する意見陳述の理由説明」もしくは「監査報告」で行われる、ということになります。

江頭教授の「株式会社法」では監査等委員会の意見陳述権は「経営評価機能」のひとつとして分類されていますが、いずれにしても、個々の監査等委員会設置会社としては、妥当性監査(効率性監査)ないし妥当性監督(効率性監督)を取締役会と監査等委員会でどのように分担しているのか、とりわけ監査等委員会の分担する妥当性監査、監督の結果は、どのように株主に対して報告されるのか、という点を対外的に説明する必要があるのではないでしょうか。

「裁判規範」から離れて、会社法を「行為規範」として捉えると、実務に及ぼす影響がいろいろと出てきます。監査等委員会設置会社の監査等委員の方が会長になられた日本監査役協会も、いまこそ監査等委員会(および機関を構成する監査等委員)の業績評価の役割について、取締役会と何をどのように分担すべきなのか、どのように株主に報告すべきなのか、「形式から実質へ」深化させた実務指針を示す時期に来ているものと思います。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年2月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。